白雲の
かゝらざりせば
山櫻
かさねて花の
いろをみましや
しらくもの
かからざりせば
やまさくら
かさねてはなの
いろをみましや


頼まじな
風のまゝなる
花ずゝき
心と招く
たもとならねば
たのまじな
かぜのままなる
はなずゝき
こころとまねく
たもとならねば


今朝は又
空にや冬を
知らすらむ
袖に降りにし
時雨なれ共
けさはまた
そらにやふゆを
しらすらむ
そでにふりにし
しぐれなれとも


都にて
見し面影ぞ
殘りける
草のまくらの
ありあけのつき
みやこにて
みしおもかげぞ
のこりける
くさのまくらの
ありあけのつき


九重に
降りしく雪は
いにしへの
法の莚に
あとや見ゆらむ
ここのへに
ふりしくゆきは
いにしへの
のりのむしろに
あとやみゆらむ


嬉しさを
さながら袖に
包むかな
仰ぐ御空の
月をやどして
うれしさを
さながらそでに
つつむかな
あおぐみそらの
つきをやどして


千早ぶる
その神山の
中におつる
御手洗河の
音のさやけさ
ちはやぶる
そのかみやまの
なかにおつる
みてあらかはの
おとのさやけさ


曇なき
世を照さむと
ちかひてや
日吉の宮の
跡をたれけむ
くもりなき
よをてらさむと
ちかひてや
ひよしのみやの
あとをたれけむ


相坂の
關の此方の
いかなれば
まだ越えぬより
苦しかる覽
あふさかの
せきのこなたの
いかなれば
まだこえぬより
くるしかるらん


なれて猶
あかぬ名殘の
悲しきは
かさなる春の
別なりけり
なれてなほ
あかぬなのこの
かなしきは
かさなるはるの
わかれなりけり


山里に
世をいとはむと
思ひしは
猶ふかゝらぬ
心なりけり
やまざとに
よをいとはむと
おもひしは
なほふかからぬ
こころなりけり


行末の
何かゆかしき
こし方に
うき身の程は
思ひしりにき
ゆくすゑの
なにかゆかしき
こしかたに
うきみのほどは
おもひしりにき


道のべに
茂る小笹の
一ふしも
心とまらぬ
この世なりけり
みちのべに
しげるをささの
ひとふしも
こころとまらぬ
このよなりけり


老いてみる
我影のみや
變るらむ
昔ながらの
ひろさはの池
をいてみる
われかげのみや
かはるらむ
むかしながらの
ひろさはのいけ


垂乳根の
ありし其世に
哀など
思ふばかりも
仕へざりけむ
たらちねの
ありしそれよに
あはれなど
おもふばかりも
つかへざりけむ