あひみむと
おもひしことを
たかふれは
つらきかたにも
さためつるかな
あひみむと
おもひしことを
たかふれは
つらきかたにも
さためつるかな


春はまづ
霞にまがふ
山里を
たちよりてとふ
人のなきかな
はるはまづ
かすみにまがふ
やまざとを
たちよりてとふ
ひとのなきかな


法の爲
つみける花を
かず〳〵に
今は此世の
形見とぞ思ふ
のりのため
つみけるはなを
かずかずに
いまはこのよの
かたみとぞおもふ


君すらも
まことの道に
入りぬなり
一人や長き
闇に惑はむ
きみすらも
まことのみちに
いりぬなり
ひとりやながき
やみにまどはむ


光出づる
葵の影を
みてしかば
年へにけるも
嬉しかりけり
ひかりいづる
あふひのかげを
みてしかば
としへにけるも
うれしかりけり


御幸せし
かもの川波
歸るさに
たちやよるとて
待明しつる
みゆきせし
かものかはなみ
かへるさに
たちやよるとて
まちあかしつる


神代より
すれる衣と
いひながら
又かさねても
珍しきかな
かみよより
すれるころもと
いひながら
またかさねても
めづらしきかな


思へ共
忌む迚いはぬ
事なれば
其方に向て
音をのみぞなく
おもへども
いむとていはぬ
ことなれば
こちらにむひて
ねをのみぞなく

其方=こちら?
あみだ佛と
いふなる聲に
夢さめて
西へ傾ぶく
月を社みれ
あみだぶと
いふなるこゑに
ゆめさめて
にしへかたぶく
つきをこそみれ


秋のよの
露おきまさる
草村に
かげうつりゆく
山のはの月
あきのよの
つゆおきまさる
くさむらに
かげうつりゆく
やまのはのつき


世々をへて
説きくる法は
おほかれど
花ぞ眞の
心なりける
よ々をへて
ときくるのりは
おほかれど
はなぞまことの
こころなりける


山ざとの
花のにほひの
いかなれや
香を尋ねくる
鶯のなき
やまざとの
はなのにほひの
いかなれや
かをたづねくる
うぐひすのなき


琴の音を
春の調と
ひくからに
霞みて見ゆる
空めなるらむ
ことのねを
はるのしらべと
ひくからに
かすみてみゆる
そらめなるらむ


琴の音の
春のしらべに
聞ゆれば
霞たなびく
空かとぞ思ふ
ことのおとの
はるのしらべに
きこゆれば
かすみたなびく
そらかとぞおもふ


露霜と
おきふしいかで
あかすらむ
ならはぬ旅の
草の枕に
つゆしもと
おきふしいかで
あかすらむ
ならはぬたびの
くさのまくらに
Где роса и иней,
Как ты там? Наверное,
Всю ночь без сна
В путешествии непривычном
На изголовье из трав?..


ぬる夜なく
法を求る
人もあるを
夢の内にて
過る身ぞうき
ぬるよなく
のりをもとむる
ひともあるを
ゆめのうちにて
すぐるみぞうき


草の庵に
年へしほどの
心には
露かゝらむと
思ひかけきや
くさのいほに
としへしほどの
こころには
つゆかからむと
おもひかけきや


露置きて
ながむる程を
思ひやれ
天の河原の
あかつきの空
つゆおきて
ながむるほどを
おもひやれ
あめのかはらの
あかつきのそら


色々の
花はさかりに
匂ふとも
野原の風の
おとにのみ聞け
いろいろの
はなはさかりに
にほふとも
のはらのかぜの
おとにのみきけ


心澄む
秋の月だに
なかりせば
なにをうき世の
慰めにせむ
こころすむ
あきのつきだに
なかりせば
なにをうきよの
なぐさめにせむ


山里に
有明の空を
詠めても
なほや知られぬ
あきの哀れは
やまざとに
ありあけのそらを
ながめても
なほやしられぬ
あきのあはれは


春知らで
おぼつかなきに
鶯の
今日珍しき
こゑを聞かばや
はるしらで
おぼつかなきに
うぐひすの
けふめづらしき
こゑをきかばや


光出づる
あふひのかげを
見てしかば
年経にけるも
うれしかりけり
ひかりいづる
あふひのかげを
みてしかば
としへにけるも
うれしかりけり


立ちのぼる
煙につけて
思ふかな
いつまたわれを
人のかく見む
たちのぼる
けぶりにつけて
おもふかな
いつまたわれを
ひとのかくみむ


みな人は
まことの道に
入りぬなり
一人や長き
闇にまどはむ
みなひとは
まことのみちに
いりぬなり
ひとりやながき
やみにまどはむ

まこと=底本「まと」
名をだにも
忌むとて言はぬ
事なれば
そなたに向きて
音をのみぞ泣く
なをだにも
いむとていはぬ
ことなれば
そなたにむきて
ねをのみぞなく

詞花410