佐保姫の
霞の衣
ふゆかけて
雪げのそらに
はるは來にけり
さほひめの
かすみのころも
ふゆかけて
ゆきげのそらに
はるはきにけり
Одежды туманные
Принцессы Саохимэ
Покрыли зиму,
И в небесах растаявшего снега
Весна пришла!
里人に
山澤水の
薄ごほり
とけにし日より
わかなつみつゝ
さとひとに
やまさはみづの
うすごほり
とけにしひより
わかなつみつつ
難波潟
かりふく芦の
八重がすみ
ひまこそなけれ
はるの曙
なにはかた
かりふくあしの
やへがすみ
ひまこそなけれ
はるのあけぼの
山櫻
咲ける咲かざる
おしなべて
さながら花と
見ゆる白雲
やまさくら
さけるさかざる
おしなべて
さながらはなと
みゆるしらくも
今は又
忍ぶの里の
忍ぶにも
あらぬ皐月の
ほとゝぎすかな
いまはまた
しのぶのさとの
しのぶにも
あらぬさつきの
ほととぎすかな
瀧つ瀬に
落ち添ふ水の
音羽川
せく方もなき
五月雨のころ
たきつせに
おちそふみづの
おとはかは
せくかたもなき
さみだれのころ
夏山の
楢の葉がしは
風過ぎて
峯立ちのぼる
ゆふだちの雲
なつやまの
ならのはがしは
かぜすぎて
みねたちのぼる
ゆふだちのくも
秋風を
老の寐覺に
待ちえても
こぼれやすきは
涙なりけり
あきかぜを
おいのねざめに
まちえても
こぼれやすきは
なみだなりけり
潮風の
浪かけ衣
あきを經て
月になれたる
須磨のうらびと
しほかぜの
なみかけころも
あきをへて
つきになれたる
すまのうらびと
誰が秋の
つらさ恨みて
蛬
暮るれば野邊の
つゆに鳴くらむ
たがあきの
つらさうらみて
きりきりす
くるればのべの
つゆになくらむ
よそに聞く
我が寐覺だに
長き夜を
あかずや賤が
衣うつ覽
よそにきく
わがねざめだに
ながきよを
あかずやしづが
ころもうつらん
浦人も
夜や寒からし
霰降る
かじまの崎の
おきつしほかぜ
うらひとも
よやさむからし
あられふる
かじまのさきの
おきつしほかぜ
見せばやと
待つ覽とてぞ
急ぎつる
日影の雪の
跡を尋ねて
みせばやと
まつらんとてぞ
いそぎつる
ひかげのゆきの
あとをたづねて
清見潟
打ち出でゝ見れば
庵原の
三保の興津は
波靜かなり
きよみかた
うちいでてみれば
いほはらの
みほのおきつは
なみしづかなり
Из Киёмигата
Если выйти и глянуть:
В Иохара,
В открытом море Мио
Успокоились волны!
さゞ波や
神代の松の
そのまゝに
昔ながらの
うら風ぞふく
さゞなみや
かみよのまつの
そのままに
むかしながらの
うらかぜぞふく
神だにも
我道まもれ
みしめ繩
世の人ごとは
引くによるとも
かみだにも
われみちまもれ
みしめなは
よのひとごとは
ひくによるとも
入りそむる
繁き小笹の
露ならで
まづ袖ぬらす
我が泪かな
いりそむる
しげきをささの
つゆならで
まづそでぬらす
わがなみだかな
洩さばや
山もとかけて
せく池の
いひ出でがたき
心あり共
もらさばや
やまもとかけて
せくいけの
いひいでがたき
こころありとも
限ある
命の程の
つれなさも
戀ひ死なぬにぞ
思ひ知らるゝ
かぎりある
いのちのほどの
つれなさも
こひしなぬにぞ
おもひしらるる
よしさらば
唯中々に
強面かれ
うきに負けてや
思ひ弱ると
よしさらば
ただなかなかに
つれなかれ
うきにまけてや
おもひよはると
代々かけて
波こさじとは
契るとも
いさや心の
すゑの松山
よ々かけて
なみこさじとは
ちぎるとも
いさやこころの
すゑのまつやま
よそにだに
思ひもいでじ
はし鷹の
野守の鏡
影もみえねば
よそにだに
おもひもいでじ
はしたかの
のもりのかがみ
かげもみえねば
すまば又
すまれこそせめ
山里は
筧の水の
あるにまかせて
すまばまた
すまれこそせめ
やまざとは
かけひのみづの
あるにまかせて
和歌の浦に
獨老いぬる
よるの鶴の
子の爲思ふ
ね社なかるれ
わかのうらに
ひとりおいぬる
よるのつるの
ねのためおもふ
ねこそなかるれ
なにゆゑか
よそに歎かむ
心より
思ひ立ちぬる
墨ぞめの袖
なにゆゑか
よそになげかむ
こころより
おもひたちぬる
すみぞめのそで
問はずとて
愚なるにや
思ひけむ
心をかへて
嘆きこし身を
とはずとて
おろかなるにや
おもひけむ
こころをかへて
なげきこしみを
さこそげに
夢の別の
かなしきは
忘るゝまなき
現なるらめ
さこそげに
ゆめのわかれの
かなしきは
わするるまなき
うつつなるらめ
はるかなる
麓はそこと
みえわかで
霞の上に
のこる山のは
はるかなる
ふもとはそこと
みえわかで
かすみのうへに
のこるやまのは
Далёкие подножья гор
Дном кажутся — что и
Не различить,
А над дымкой туманной
Виднеются склоны гор!
吉野山
幾代の春か
ふりぬらむ
尾上の花を
くもにまがへて
よしのやま
いくよのはるか
ふりぬらむ
おのえのはなを
くもにまがへて
В горах Ёсино
Так много вёсен уж
Прошло, наверное!
Что цветы сакуры у вершин
С облаками смешались.
春の夜の
霞の間より
山の端を
ほのかにみせて
いづる月影
はるのよの
かすみのまより
やまのはを
ほのかにみせて
いづるつきかげ
Весенней ночью
Меж клубов дымки туманной
Склоны гор
Вдалеке показал
Вышедшей луны свет!
折りはへて
音に鳴きくらす
蝉のはの
夕日も薄き
衣手の杜
をりはへて
ねになきくらす
せみのはの
ゆふひもうすき
ころもでのもり
今よりの
衣かりがね
秋風に
たが夜寒とか
鳴きてきぬらむ
いまよりの
ころもかりがね
あきかぜに
たがよさむとか
なきてきぬらむ
影やどす
月のかつらも
ひとつにて
空よりすめる
秋の川水
かげやどす
つきのかつらも
ひとつにて
そらよりすめる
あきのかはみづ
須磨の浦や
關の戸かけて
立つ波を
月に吹きこす
秋の汐風
すまのうらや
せきのとかけて
たつなみを
つきにふきこす
あきのしほかぜ
露霜の
おくてのいなば
色づきて
かり庵さむき
秋の山かぜ
つゆしもの
おくてのいなば
いろづきて
かりいほさむき
あきのやまかぜ
Роса и иней
Выпадая, пожелтили
Листья рисовые,
В сторожке холодно, —
С гор дует осенний студёный ветер.
さを鹿の
こゑより外も
をぐら山
夕日の影に
秋ぞ暮れ行く
さをしかの
こゑよりほかも
をぐらやま
ゆふひのかげに
あきぞくれゆく
紅葉ばの
秋の名殘の
かたみだに
われとのこさぬ
木枯の風
もみぢばの
あきのなごりの
かたみだに
われとのこさぬ
こがらしのかぜ
さゆる夜の
嵐の風に
降り初めて
明くる雲間に
つもる白雪
さゆるよの
あらしのかぜに
ふりそめて
あくるくもまに
つもるしらゆき
春日山
いのりし末の
世々かけて
昔かはらぬ
松のふぢなみ
かすがやま
いのりしすゑの
よよかけて
むかしかはらぬ
まつのふぢなみ
時鳥
なく音をそへて
過ぎぬなり
老の寐覺の
同じなみだに
ほととぎす
なくねをそへて
すぎぬなり
おいのねざめの
おなじなみだに
君が住む
おなじ雲居の
月なれば
空にかはらぬ
萬代のかげ
きみがすむ
おなじくもゐの
つきなれば
そらにかはらぬ
よろづよのかげ
Поскольку в том же
Колодце облаков, где ты живёшь,
Находится луна,
На небе неизменен
Свет многие века.
山の端に
更けて出たる
月影の
はつかにだにも
爭で知せむ
やまのはに
ふけていでたる
つきかげの
はつかにだにも
いかでしらせむ
いばで思ふ
心ひとつの
頼みこそ
知られぬ中の
命なりけれ
いばでおもふ
こころひとつの
たのみこそ
しられぬなかの
いのちなりけれ
思兼ね
猶世にもらば
いかゞせむ
さのみ泪の
咎になしても
おもひかね
なほよにもらば
いかがせむ
さのみなみだの
とがになしても
徒に
立つ名計りや
富士のねの
ならぬ思の
けぶりなるらむ
いたづらに
たつなばかりや
ふじのねの
ならぬおもひの
けぶりなるらむ
根蓴の
ねぬなはかけて
つらさのみ
益田の池の
自らぞうき
ねぬなはの
ねぬなはかけて
つらさのみ
ますだのいけの
おのづからぞうき
かひなしや
因幡の山の
まつとても
又歸りこむ
昔ならねば
かひなしや
いなばのやまの
まつとても
またかへりこむ
むかしならねば
鳥の音ぞ
曉ごとに
なれにける
君につかふる
道いそぐとて
とりのねぞ
あかつきごとに
なれにける
きみにつかふる
みちいそぐとて
雪のうちも
春はしりけり
ふる郷の
みかきか原の
うくひすのこゑ
ゆきのうちも
はるはしりけり
ふるさとの
みかきがはらの
うぐひすのこゑ
かげろふの
燃ゆる春日の
淺緑
かすめる空も
雪は降りつゝ
かげろふの
もゆるかすがの
あさみどり
かすめるそらも
ゆきはふりつつ
嵐山
ふもとの花の
こずゑまで
一つにかゝる
峯のしらくも
あらしやま
ふもとのはなの
こずゑまで
ひとつにかかる
みねのしらくも
風のまに
散らずはありとも
山櫻
いくかを花の
盛とは見む
かぜのまに
ちらずはありとも
やまさくら
いくかをはなの
さかりとはみむ
雪とのみ
降りこそまされ
山櫻
うつろふ花の
春の木のもと
ゆきとのみ
ふりこそまされ
やまさくら
うつろふはなの
はるのこのもと
見ずもあらず
見もせぬ影の
中空に
綾なく霞む
春の夜の月
みずもあらず
みもせぬかげの
なかそらに
あやなくかすむ
はるのよのつき
行く春は
さてもとまらで
山ぶきの
花にかけたる
井手の柵
ゆくはるは
さてもとまらで
やまぶきの
はなにかけたる
ゐでのしがらみ
夏草の
あかつきおきの
露のまに
移れば明くる
山の端の月
なつくさの
あかつきおきの
つゆのまに
うつればあくる
やまのはのつき
苅りてほす
あさかの沼の
草の上に
かつ亂るゝは
螢なりけり
かりてほす
あさかのぬまの
くさのうへに
かつみだるるは
ほたるなりけり
В болоте Асака,
Поверх травы,
Что косят и сушат,
Роятся в беспорядке
Светлячки!
沖つ浪
音吹きたてゝ
しほ風の
みなとにかゝる
夕だちの雲
おきつなみ
おとふきたてて
しほかぜの
みなとにかかる
ゆふだちのくも
凉しさは
立ちよるからに
しられけり
秋風ちかき
衣手の杜
すずしさは
たちよるからに
しられけり
あきかぜちかき
ころもでのもり
村雨の
野分のつゆの
玉すだれ
袖に吹きまく
秋のゆふかぜ
むらさめの
のわけのつゆの
たますだれ
そでにふきまく
あきのゆふかぜ
住の江の
松の秋風
おとづれて
空にふけ行く
夜半の月かげ
すみのえの
まつのあきかぜ
おとづれて
そらにふけゆく
よはのつきかげ
難波がた
浦よりをちの
月かげに
浪もへだてぬ
淡路島やま
なにはがた
うらよりをちの
つきかげに
なみもへだてぬ
あはじしまやま
さゞ波や
にほてる蜑の
ぬれ衣
浦風さむく
擣たぬ夜もなし
さざなみや
にほてるあまの
ぬれころも
うらかぜさむく
うたぬよもなし
嵐ふく
すり野の日數
さえくれて
雲の便に
あられ降るなり
あらしふく
すりののひかず
さえくれて
くものたよりに
あられふるなり
浦風に
かへらぬ浪と
見ゆる哉
おなじみぎはに
降れる白雪
うらかぜに
かへらぬなみと
みゆるかな
おなじみぎはに
ふれるしらゆき
こま渡す
一瀬もみえず
やへこほり
うは波なきは
深き水底
こまわたす
ひとせもみえず
やへこほり
うはなみなきは
ふかきみなそこ
露ながら
色もかはらず
すり衣
千草の花の
みやぎ野のはら
つゆながら
いろもかはらず
すりころも
ちくさのはなの
みやぎののはら
夢をだに
みつとは言はじ
難波なる
芦の篠屋の
夜半の秋風
ゆめをだに
みつとはいはじ
なにはなる
あしのしのやの
よはのあきかぜ
月待ちて
猶越え行かむ
夕やみは
道たど〳〵し
小夜の中山
つきまちて
なほこえゆかむ
ゆふやみは
みちたどたどし
さよのなかやま
かへるさに
思ひおくれぬ
心とも
旅寐の夢に
見えば頼まむ
かへるさに
おもひおくれぬ
こころとも
たびねのゆめに
みえばたのまむ
敷島や
大和ことの葉
我が世まで
享けゝる神の
末も頼もし
しきしまや
やまとことのは
わがよまで
うけけるかみの
すゑもたのもし
埋れ木の
身は徒に
舊りぬとも
神だに春の
めぐみあらはせ
うづもれこの
みはいたづらに
ふりぬとも
かみだにはるの
めぐみあらはせ
おのづから
心にこもる
塵も無し
清きながれの
山川のみづ
おのづから
こころにこもる
ちりもなし
きよきながれの
やまかはのみづ
さぞとだに
仄めかさばや
難波人
折焚くこやの
芦のしのびに
さぞとだに
ほのめかさばや
なにはひと
をりたくこやの
あしのしのびに
影をだに
いかでか見まし
契こそ
うたて淺香の
山の井の水
かげをだに
いかでかみまし
ちぎりこそ
うたてあさかの
やまのゐのみづ
戀ひわぶる
身の爲つらき
命にて
契もしらぬ
同じ世ぞうき
こひわぶる
みのためつらき
いのちにて
ちぎりもしらぬ
おなじよぞうき
榊葉に
神のゆふしで
懸けてだに
難面き色を
えやは祈らむ
さかきばに
かみのゆふしで
かけてだに
つれなきいろを
えやはいのらむ
近江路に
通ひなれたる
駒もがな
つれなき中の
戀の知べに
あふみぢに
かよひなれたる
こまもがな
つれなきなかの
こひのしるべに
あふ事は
同じ現の
つらさにて
ぬる夜を頼む
夢だにもなし
あふことは
おなじうつつの
つらさにて
ぬるよをたのむ
ゆめだにもなし
在しよを
戀ふる現は
かひなきに
夢になさばや
又も見ゆやと
さぞとだに
思ひも出でじ
秋の田の
假にも斯と
驚かさずば
さぞとだに
おもひもいでじ
あきのたの
かりにもかくと
おどろかさずば
面影の
忘れぬばかり
形見にて
待ちしに似たる
山の端の月
おもかげの
わすれぬばかり
かたみにて
まちしににたる
やまのはのつき
忘れじと
契りし中の
末の松
たがつらさにか
波は越ゆらむ
わすれじと
ちぎりしなかの
すゑのまつ
たがつらさにか
なみはこゆらむ
忘らるゝ
簔のを山の
難面くも
まつと聞かれむ
名こそ惜けれ
わすらるる
みののをやまの
つらなくも
まつときかれむ
なこそをしけれ
山の端の
月ははつかに
成ぬれど
廻り逢ふべき
契をぞ待つ
やまのはの
つきははつかに
なりぬれど
めぐりあふべき
ちぎりをぞまつ
いまは身の
雪につけても
徒に
つもれば老の
年もふりつゝ
いまはみの
ゆきにつけても
いたづらに
つもればおいの
としもふりつつ
なき跡は
かたみだに猶
留らで
秋もわかれと
ちる木のは哉
なきあとは
かたみだになほ
とどまらで
あきもわかれと
ちるこのはかな
和歌の浦に
みがける玉を
拾ひおきて
古今の
數をみるかな
櫻花
いざや手ごとに
手折りもて
共に千歳の
春にかざゝむ
さくらばな
いざやてごとに
てをりもて
ともにちとせの
はるにかざさむ
牡鹿待つ
さつをの火串
ほの見えて
よそに明行く
端山繁山
をしかまつ
さつをのほぐし
ほのみえて
よそにあけゆく
はやましげやま
常磐山
かはる梢は
見えねども
月こそ秋の
いろにいでけれ
ときはやま
かはるこずゑは
みえねども
つきこそあきの
いろにいでけれ
枯れね唯
其の名もよしや
忍草
思ふにまけば
人もこそしれ
かれねただ
そのなもよしや
しのぶくさ
おもふにまけば
ひともこそしれ
忘れじの
人の頼めは
かひなくて
生ける計りの
年月ぞ憂き
わすれじの
ひとのたのめは
かひなくて
いけるばかりの
としつきぞうき
山もとの
松のかこひの
あれまくに
嵐よしばし
心して吹け
やまもとの
まつのかこひの
あれまくに
あらしよしばし
こころしてふけ
ふりにける
神代も遠し
小鹽山
おなじみどりの
みねの松原
ふりにける
かみよもとほし
をしほやま
おなじみどりの
みねのまつはら
千年ふる
ためしを今に
始めおきて
花の御幸の
春ぞ久しき
ちとせふる
ためしをいまに
はじめおきて
はなのみゆきの
はるぞひさしき
谷の戸は
雪も氷も
解けやらず
山かげさむき
春のあらしに
たにのとは
ゆきもこほりも
とけやらず
やまかげさむき
はるのあらしに
高砂の
尾上のくもの
色そへて
花にかさなる
山ざくらかな
たかさごの
おのえのくもの
いろそへて
はなにかさなる
やまざくらかな
三吉野の
花は昔の
春ながら
などふるさとの
山となりけむ
みよしのの
はなはむかしの
はるながら
などふるさとの
やまとなりけむ
あやにくに
初音待たれし
郭公
五月はおのが
時と鳴くなり
あやにくに
はつねまたれし
ほととぎす
さつきはおのが
ときとなくなり
唐ごろも
裾野の草の
白露の
むすべば解くる
花のしたひも
からごろも
すそののくさの
しらつゆの
むすべばとくる
はなのしたひも
高瀬さす
淀のわたりの
深き夜に
かはかぜ寒き
秋の月かげ
たかせさす
よどのわたりの
ふかきよに
かはかぜさむき
あきのつきかげ
つれなさの
ためしは知るや
小男鹿の
妻とふ山の
有明の空
つれなさの
ためしはしるや
さをしかの
つまとふやまの
ありあけのそら
夕日さす
田のもの稻葉
打ち靡き
やまもと遠く
秋風ぞふく
ゆふひさす
たのものいなば
うちなびき
やまもととほく
あきかぜぞふく
降り積る
雪を重ねて
三吉野の
たぎつかふちに
氷るしら波
ふりつもる
ゆきをかさねて
みよしのの
たぎつかふちに
こほるしらなみ
里遠き
山路の雲は
しぐれつゝ
ゆふ日にいそぐ
秋のたび人
さととほき
やまぢのくもは
しぐれつつ
ゆふひにいそぐ
あきのたびひと
山川の
たぎつ心も
せきかねつ
思ふにあまる
袖のなみだに
やまかはの
たぎつこころも
せきかねつ
おもふにあまる
そでのなみだに
富士のねや
燃えつゝとはに
歎きても
ならぬ思の
果ぞ悲しき
ふじのねや
もえつつとはに
なげきても
ならぬおもひの
はてぞかなしき
逢ふ迄と
頼みしまゝに
年暮れて
契も知らず
行く月日かな
あふまでと
たのみしままに
としくれて
ちぎりもしらず
ゆくつきひかな
戀死なむ
後の世とても
如何ならむ
生きて難面き
人の心は
こひしなむ
のちのよとても
いかならむ
いきてつれなき
ひとのこころは
思ひ出づる
心一つの
かひもなし
同じ世にだに
知らぬ契は
おもひいづる
こころひとつの
かひもなし
おなじよにだに
しらぬちぎりは
今は唯
思ひたえたる
つらさにて
契くやしき
夕ぐれのそら
いまはただ
おもひたえたる
つらさにて
ちぎりくやしき
ゆふぐれのそら
古の
世々に變らず
傳へきて
今もあつむる
やまとことの葉
いにしへの
よよにかはらず
つたへきて
いまもあつむる
やまとことのは
めぐり逢ふ
雲居の月に
幾度か
出でゝ仕へし
秋を戀ふらむ
めぐりあふ
くもゐのつきに
いくたびか
いでてつかへし
あきをこふらむ
おのづから
物思ふ人も
慰さめと
浮世に秋の
月やすむらむ
おのづから
ものおもふひとも
なぐさめと
うきよにあきの
つきやすむらむ
立ちわたる
霞のうへの
山風に
なほ空さむく
雪は降りつゝ
たちわたる
かすみのうへの
やまかぜに
なほそらさむく
ゆきはふりつつ
Над проплывающей
Дымкой весенней
В горном ветре
Холодны небеса, и там
Всё идёт и идёт снег.
誰か又
雪間を分けて
春日野の
草のはつかに
若菜摘むらむ
たれかまた
ゆきまをわけて
かすがのの
くさのはつかに
わかなつむらむ
淺緑
色そめかけて
はるかぜの
枝にみだるゝ
あを柳のいと
あさみどり
いろそめかけて
はるかぜの
えだにみだるる
あをやぎのいと
遂に聞く
物ゆゑなどて
郭公
まづいそがるゝ
初音なるらむ
つひにきく
ものゆゑなどて
ほととぎす
まづいそがるる
はつねなるらむ
芦垣の
まぢかきほどの
蛬
おもひやなぞと
いかでとはまし
あしかきの
まぢかきほどの
きりきりす
おもひやなぞと
いかでとはまし
嵐山
脆き木の葉に
降りそへて
峯行く雲も
また志ぐれつゝ
あらしやま
もろきこのはに
ふりそへて
みねゆくくもも
またしぐれつつ
浦波の
たよりに風や
なりぬらむ
由良のみなとを
渡る舟人
うらなみの
たよりにかぜや
なりぬらむ
ゆらのみなとを
わたるふなびと
忘るなよ
又逢ふまでの
契とも
知らぬ形見の
ありあけの月
わするなよ
またあふまでの
ちぎりとも
しらぬかたみの
ありあけのつき
眞澄かゞみ
何面影の
殘るらむ
つらき心は
うつりはてにき
ますかがみ
なにおもかげの
のこるらむ
つらきこころは
うつりはてにき
荒磯に
寄り來る浪の
さのみやは
心砕けて
身をもうらみむ
ありいそに
よりくるなみの
さのみやは
こころくだけて
みをもうらみむ
我身をぞ
喞つ方とは
恨みつる
人のつらさの
云ふに叶はで
わがみをぞ
かこつかたとは
うらみつる
ひとのつらさの
いふにかなはで
杣山の
谷の埋れ木
年經れど
跡あるかたに
引くひとも無し
そまやまの
たにのうもれき
としへれど
あとあるかたに
ひくひともなし
現とて
見るに現の
有らばこそ
夢をもゆめと
思ひあはせめ
うつつとて
みるにうつつの
あらばこそ
ゆめをもゆめと
おもひあはせめ
垂乳根の
有りて諌めし
言の葉は
亡き跡にこそ
思知らるれ
たらちねの
ありていさめし
ことのはは
なきあとにこそ
おもひしらるれ
渡つ海の
眞砂の數に
あまれるは
久しき君が
千年なりけり
わたつみの
まさごのかずに
あまれるは
ひさしききみが
ちとせなりけり
をとめ子が
かざしの桜
さきにけり
袖ふる山に
かかる白雲
をとめこが
かざしのさくら
さきにけり
そでふるやまに
かかるしらくも
しられしな
心ひとつに
なけくとも
いはてはみゆる
思ならねは
しられしな
こころひとつに
なけくとも
いはてはみゆる
おもひならねは
いつはりの
人のとかさへ
身のうきに
おもひなさるゝ
夕暮の空
いつはりの
ひとのとかさへ
みのうきに
おもひなさるる
ゆふぐれのそら
きぬ〳〵の
別しなくは
うき物と
いはてそ見まし
有明の月
きぬきぬの
わかれしなくは
うきものと
いはてそみまし
ありあけのつき
さきなはと
またれし梅の
花のかに
こぬ人たのむ
春の山里
さきなはと
またれしうめの
はなのかに
こぬひとたのむ
はるのやまざと
さかきとり
しめゆふもりの
ほとゝきす
卯月をかけて
忍ひ音そなく
さかきとり
しめゆふもりの
ほとときす
うつきをかけて
しのひねそなく
天の河
いかになかれて
七夕の
としにあふせは
かはらさる覧
あまのかは
いかになかれて
たなばたの
としにあふせは
かはらさるらむ
秋のよの
月こそ有けれ
世中に
今もむかしの
かたみはかりは
あきのよの
つきこそありけれ
よのなかに
いまもむかしの
かたみはかりは
色かはる
野原の小萩
たか秋に
あらぬ物ゆへ
鹿の鳴らん
いろかはる
のはらのこはぎ
たかあきに
あらぬものゆへ
しかのなくらん
声たてゝ
鹿そ鳴なる
神なひの
いはせの森は
紅葉すらしも
こゑたてて
しかそなくなる
かむなびの
いはせのもりは
もみぢすらしも
行秋の
かたみとたにも
契をけ
うつろふ菊の
花のしら露
ゆきあきの
かたみとたにも
ちぎりをけ
うつろふきくの
はなのしらつゆ
あらし吹
山の木のはの
空にのみ
さそはれて行
秋の暮哉
あらしふく
やまのこのはの
そらにのみ
さそはれてゆく
あきのくれかな
風わたる
河せの水の
しからみに
なを秋かけて
のこるもみちは
かぜわたる
かはせのみづの
しからみに
なをあきかけて
のこるもみちは
吉野河
滝つかは風
をとさえて
岩とかしはに
こほるしら波
よしのかは
たきつかはかぜ
をとさえて
いはとかしはに
こほるしらなみ
いとゝ又
かりにも人の
あとたえて
つもれは雪の
深草の里
いととまた
かりにもひとの
あとたえて
つもれはゆきの
ふかくさのさと
猶しはし
見てこそゆかめ
高師山
麓にめくる
浦の松原
なほしはし
みてこそゆかめ
たかしやま
ふもとにめくる
うらのまつはら
いはみ野や
夕こえくれて
みわたせは
たかつの山に
月そいさよふ
いはみのや
ゆふこえくれて
みわたせは
たかつのやまに
つきそいさよふ
立かへり
みなとにさはく
しら波の
しらしな同し
人にこふとも
たちかへり
みなとにさはく
しらなみの
しらしなおなし
ひとにこふとも
恋わひて
なとしなはやと
思ふらん
人のためなる
命ならぬに
こひわひて
なとしなはやと
おもふらん
ひとのためなる
いのちならぬに
うきにこそ
けに偽は
なかりけれ
わするゝかたの
つらきまことに
うきにこそ
けにいつはりは
なかりけれ
わするるかたの
つらきまことに
春霞
はや立にけり
古郷の
よし野のみゆき
今やけぬらし
はるかすみ
はやたちにけり
ふるさとの
よしののみゆき
いまやけぬらし
春きぬと
霞たなひく
かつらきの
高間の山は
花やさくらん
はるきぬと
かすみたなひく
かつらきの
たかまのやまは
はなやさくらん
花の色は
それともみえす
山桜
あまきる雲の
春の明ほの
はなのいろは
それともみえす
やまさくら
あまきるくもの
はるのあけほの
雲のたて
霞のぬきに
をりはへて
花はにしきの
名にそ立ける
くものたて
かすみのぬきに
をりはへて
はなはにしきの
なにそたちける
あま雲の
よそにかたらふ
ほとゝきす
さすかに声も
聞そふりぬる
あまくもの
よそにかたらふ
ほとときす
さすかにこゑも
きそふりぬる
あき萩の
花咲ぬらし
我せこか
衣かりかね
今きなくなり
あきはぎの
はなさかぬらし
わがせこか
ころもかりかね
いまきなくなり
見れはとて
なくさみもせす
秋の月
暮る夜毎の
老の涙に
みれはとて
なくさみもせす
あきのつき
くるよるごとの
おいのなみだに
露霜の
ふるさと人の
から衣
おなし夜さむに
うたぬまもなし
つゆしもの
ふるさとひとの
からころも
おなしよさむに
うたぬまもなし
冬の夜は
霜をかさねて
鵲の
わたせるはしに
こほる月影
ふゆのよは
しもをかさねて
かささぎの
わたせるはしに
こほるつきかげ
吹風の
うはの空なる
梅か香に
霞も匂ふ
春の夕暮
ふかぜの
うはのそらなる
うめかかに
かすみもにほふ
はるのゆふぐれ
大井河
山もとくたる
かゝり火の
うつりもあへす
明るみしか夜
おほゐかは
やまもとくたる
かかりひの
うつりもあへす
あくるみしかよ
都には
心もとめぬ
春のかり
こし路の山の
名こそつらけれ
みやこには
こころもとめぬ
はるのかり
こしぢのやまの
なこそつらけれ
吹をくる
浦よりをちの
塩風に
鹿の音近き
淡路島山
ふくをくる
うらよりをちの
しほかぜに
しかのねちかき
あはじしまやま
身にしみて
吹こそまされ
日晩の
鳴夕くれの
秋の初風
みにしみて
ふきこそまされ
ひぐらしの
なくゆふくれの
あきのはつかぜ
かた山の
はゝその梢
色つきて
秋風さむみ
かりそなくなる
かたやまの
ははそのこずゑ
いろつきて
あきかぜさむみ
かりそなくなる
時雨もて
をるてふ秋の
からにしき
たちかさねたる
衣手の森
しぐれもて
をるてふあきの
からにしき
たちかさねたる
ころもでのもり
風さむき
吹井の浦の
さ夜千鳥
遠き塩干の
瀉に鳴なり
かぜさむき
ふけゐのうらの
さよちとり
とほきしほひの
はまになくなり
暮かゝる
ゆふへの空に
雲さえて
山の端はかり
ふれる白雪
くれかかる
ゆふへのそらに
くもさえて
やまのははかり
ふれるしらゆき
さしのほる
ひかりにつけて
三笠山
かけなひくへき
末そみえける
さしのほる
ひかりにつけて
みかさやま
かけなひくへき
すゑそみえける
今よりの
涙のはてよ
いかならん
恋そむるたに
袖はぬれけり
いまよりの
なみだのはてよ
いかならん
こひそむるたに
そではぬれけり
せきとむる
うちの川瀬の
あしろ木に
余てこゆる
水の白浪
せきとむる
うちのかはせの
あしろきに
あまりてこゆる
みづのしらなみ
清見かた
うち出てみれは
いほはらの
みほの奥津は
波しつかなり
きよみかた
うちいでてみれは
いほはらの
みほのおきつは
なみしつかなり
たかさとの
家ゐなるらん
かた山の
ふもとにめくる
竹の一村
たかさとの
いへゐなるらん
かたやまの
ふもとにめくる
たけのひとむら
六十あまり
老ぬる年の
しるしとて
君かなさけの
身にあまるかな
むそぢあまり
おいぬるとしの
しるしとて
きみかなさけの
みにあまるかな
つかふるは
おやのをしへと
頼めとも
身のためにうき
世をいかにせん
つかふるは
おやのをしへと
たのめとも
みのためにうき
よをいかにせん
おなし世を
そむくときけは
今更に
身のつれなさそ
思ひしらるゝ
おなしよを
そむくときけは
いまさらに
みのつれなさそ
おもひしらるる