五月雨の
空にも月は
行くものを
光みねばや
志る人のなき
さみだれの
そらにもつきは
ゆくものを
ひかりみねばや
しるひとのなき


明石潟
あまのたく繩
くるゝより
雲こそなけれ
秋の月かげ
あかしかた
あまのたくなは
くるるより
くもこそなけれ
あきのつきかげ


しのぶるも
我が理と
いひながら
さても昔を
とふ人ぞなき
しのぶるも
わがことはりと
いひながら
さてもむかしを
とふひとぞなき


すみわたる
ひかりも清し
白妙の
濱名のはしの
秋のよの月
すみわたる
ひかりもきよし
しろたへの
はまなのはしの
あきのよのつき


峰の雪は
霞みもあへぬ
山里に
先づ咲くものと
匂ふ梅が枝
ねのゆきは
かすみもあへぬ
やまざとに
まづさくものと
にほふうめがえ


芳野山
たなびく雲の
とだえとも
他には見えぬ
花の色かな
よしのやま
たなびくくもの
とだえとも
ほかにはみえぬ
はなのいろかな


初瀬川
ゐでこす浪の
音よりも
さやかに澄める
秋の夜の月
はつせかは
ゐでこすなみの
おとよりも
さやかにすめる
あきのよのつき


頼まれぬ
心ぞ見ゆる
來ては又
空しき空に
かへるかりがね
たのまれぬ
こころぞみゆる
きてはまた
むなしきそらに
かへるかりがね


村雲に
風ふく夜半の
月かげの
はやくもみてし
人ぞ戀しき
むらくもに
かぜふくよはの
つきかげの
はやくもみてし
ひとぞこひしき


忍ぶ山
岩ねの枕
かはすとも
した行く水の
もらさずもがな
しのぶやま
いはねのまくら
かはすとも
したゆくみづの
もらさずもがな


いつまでの
つらさなりけむ
唐衣
中にへだてし
夜はの恨は
いつまでの
つらさなりけむ
からころも
なかにへだてし
よはのうらみは


いつまでか
哀と聞かむ
時鳥
思へばたれも
ねこそなかるれ
いつまでか
あはれときかむ
ほととぎす
おもへばたれも
ねこそなかるれ


思ふこと
げになぐさむる
月ならば
苔の袂は
秋やほさまし
おもふこと
げになぐさむる
つきならば
こけのたもとは
あきやほさまし


今更に
何とか雪の
うづむらむ
我身世にふる
道は絶えにき
いまさらに
なにとかゆきの
うづむらむ
わがみよにふる
みちはたえにき


木のもとに
おくる日數の
つもりなば
故郷人や
花を恨みむ
このもとに
おくるひかずの
つもりなば
ふるさとひとや
はなをうらみむ


をちこちの
苗代水に
せきかけて
春行く河は
末ぞわかるゝ
をちこちの
なはしろみづに
せきかけて
はるゆくかはは
すゑぞわかるる


知る志らず
誰れきけとてか
時鳥
綾なくけふは
初音鳴く覽
しるしらず
たれきけとてか
ほととぎす
あやなくけふは
はつねなくらん


秋の田の
ほむけかたより
吹く風に
山本みえて
はるゝ夕霧
あきのたの
ほむけかたより
ふくかぜに
やまもとみえて
はるるゆふぎり


自づから
とふにつらさの
跡をだに
みて恨みばや
庭の白雪
おのづから
とふにつらさの
あとをだに
みてうらみばや
にはのしらゆき


ながらへて
今いくたびと
頼まねば
老こそ春の
別なりけれ
ながらへて
いまいくたびと
たのまねば
おいこそはるの
わかれなりけれ


詠めつゝ
又いかさまに
なげゝとて
夕の空に
秋のきぬらむ
ながめつつ
またいかさまに
なげけとて
ゆふべのそらに
あきのきぬらむ


世をばさて
何故捨し
我なれば
うきに止りて
月をみるらむ
よをばさて
なにゆゑすてし
われなれば
うきにとまりて
つきをみるらむ


惜みかね
涙をぬさと
手向けなば
旅行く人の
袖や志をれむ
をしみかね
なみだをぬさと
たむけなば
たびゆくひとの
そでやしをれむ


風吹けば
たゞよふ雲の
空にのみ
消えてもの思ふ
秋の夕暮
かぜふけば
ただよふくもの
そらにのみ
きえてものおもふ
あきのゆふぐれ


木の葉ふく
秋風さむみ
足曳の
山邊にひとり
月を見るかな
このはふく
あきかぜさむみ
あしびきの
やまべにひとり
つきをみるかな


誠とも
覺えぬ程の
はかなさは
夢かとだにも
とはれやはする
まこととも
おぼえぬほどの
はかなさは
ゆめかとだにも
とはれやはする


世を照す
日高の杣の
宮木もり
繁きみかげに
今か逢ふらし
よをてらす
ひたかのそまの
みやきもり
しげきみかげに
いまかあふらし


尋ねてぞ
花をも見まし
木の本を
住みかともせぬ
我身なりせば
たづねてぞ
はなをもみまし
このもとを
すみかともせぬ
わがみなりせば


夕凪に
ほづゝしめ繩
繰りさげて
泊りけずらひ
寄する舟人
ゆふ凪に
ほづつしめなは
繰りさげて
とまりけずらひ
よするふなびと


櫻花
いま咲きぬらし
志がらきの
外山の松に
雲のかゝれる
さくらばな
いまさきぬらし
しがらきの
とやまのまつに
くものかかれる


積るとも
何のためにか
厭ふべき
老いぬる後の
秋の夜の月
つもるとも
なにのためにか
いとふべき
をいぬるのちの
あきのよのつき


忘られて
生けるべしとも
知らざりし
命ぞ人の
つらさなりける
わすられて
いけるべしとも
しらざりし
いのちぞひとの
つらさなりける


亡き人も
あるが姿の
變るをも
見て如何ばかり
涙落つらむ
なきひとも
あるがすがたの
かはるをも
みていかばかり
なみだおつらむ


みてもうし
春のわかれの
近ければ
弥生の月の
ありあけの空
みてもうし
はるのわかれの
ちかければ
やよひのつきの
ありあけのそら


ふみわくる
谷の木の葉の
そよさらに
見ぬいにしへの
人ぞ戀しき
ふみわくる
たにのこのはの
そよさらに
みぬいにしへの
ひとぞこひしき


冬のきて
しくるゝ時そ
神なひの
杜の木葉も
降はしめける
ふゆのきて
しくるるときそ
かむなびの
もりのこのはも
ふりはしめける

Пришла зима, и дождь всё время льёт, и в лесу Каминаби тоже начала опадать листва...
降つもる
雪吹かへす
しほ風に
あらはれわたる
松かうら島
ふりつもる
ゆきふきかへす
しほかぜに
あらはれわたる
まつかうらしま


うらやまし
草の莚を
しき忍ひ
うき世に出ぬ
雪の山人
うらやまし
くさのむしろを
しきしのひ
うきよにいでぬ
ゆきのやまひと


君こすは
衣手さむみ
むは玉の
こよひも又や
いねかてにせん
きみこすは
ころもでさむみ
むはたまの
こよひもまたや
いねかてにせん


逢坂は
人のわかれの
道なれは
ゆふつけ鳥の
なかぬ夜もなし
あふさかは
ひとのわかれの
みちなれは
ゆふつけとりの
なかぬよもなし


難波女か
あし火の煙
たつと見は
うきふしことに
もゆとしらなん
なにはめか
あしひのけぶり
たつとみは
うきふしことに
もゆとしらなん


山おろしに
柴のかこひは
あれにけり
たなひきかくせ
峰の白雲
やまおろしに
しばのかこひは
あれにけり
たなひきかくせ
みねのしらくも


つらしとも
うし共さらに
なけかれす
今は我身の
有てなけれは
つらしとも
うしともさらに
なけかれす
いまはわがみの
ありてなけれは


世中に
つゐにもみちぬ
松よりも
つれなき物は
我身成けり
よのなかに
つゐにもみちぬ
まつよりも
つれなきものは
わがみなりけり


さほ姫の
とこの浦風
吹ぬらし
霞の袖に
かゝるしら浪
さほひめの
とこのうらかぜ
ふきぬらし
かすみのそでに
かかるしらなみ


咲匂ふ
こしまか崎の
山ふきや
やそうち人の
かさし成らん
さきにほふ
こしまかさきの
やまふきや
やそうちひとの
かさしなるらん


稀にあふ
弥生の月の
数そへて
春にをくれぬ
花をみる哉
まれにあふ
やよひのつきの
かずそへて
はるにをくれぬ
はなをみるかな


かそへては
のこりいくかと
またれつる
わかれに春の
成にけるかな
かそへては
のこりいくかと
またれつる
わかれにはるの
なりにけるかな


あかてこそ
とをさかるなれ
時鳥
そをたにのちと
誰に契て
あかてこそ
とをさかるなれ
ほととぎす
そをたにのちと
たれにちぎりて


此ころは
なかるゝ水を
せき入て
木陰すゝしき
中河の宿
このころは
なかるるみづを
せきいりて
こかげすすしき
なかかはのやど


いつくより
行てはかへる
月なれは
よな〳〵おなし
山を出らん
いつくより
ゆきてはかへる
つきなれは
よなよなおなし
やまをいづらん


人をこそ
またすもあらめ
くもれとは
いかゝ思はん
秋のよの月
ひとをこそ
またすもあらめ
くもれとは
いかかおもはん
あきのよのつき


小倉山
いま一たひも
しくれなは
みゆき待まの
色やまさらん
をぐらやま
いまひとたひも
しくれなは
みゆきまつまの
いろやまさらん


よもちらし
君か千とせの
宿なれは
色そまさらん
秋の紅葉は
よもちらし
きみかちとせの
やどなれは
いろそまさらん
あきのもみぢは


袖ぬらす
老その杜の
時雨こそ
うきに年ふる
涙なりけれ
そでぬらす
おいそのもりの
しぐれこそ
うきにとしふる
なみだなりけれ


霜かれの
よこ野の堤
風さえて
入しほとをく
千とり鳴也
しもかれの
よこののつつみ
かぜさえて
いりしほとをく
ちとりなくなり


うきかけは
やとりもはてし
芦鴨の
さはく入江の
秋のよの月
うきかけは
やとりもはてし
あしかもの
さはくいりえの
あきのよのつき


月を見は
おなし空とも
なくさまて
なと古郷の
恋しかるらん
つきをみは
おなしそらとも
なくさまて
なとふるさとの
こひしかるらん


秋まては
ふしの高ねに
みし雪を
分てそこゆる
あしからの関
あきまては
ふしのたかねに
みしゆきを
わけてそこゆる
あしからのせき


哀なり
なにとなるみの
はてなれは
またあこかれて
浦つたふらん
あはれなり
なにとなるみの
はてなれは
またあこかれて
うらつたふらん


物思ふと
我たにしらぬ
夕暮の
袖をもとめて
をける露かな
ものおもふと
われたにしらぬ
ゆふぐれの
そでをもとめて
をけるつゆかな


枯ねたゝ
軒はの草よ
中〳〵に
其名につけて
人もこそしれ
かれねたた
のきはのくさよ
なかなかに
そのなにつけて
ひともこそしれ


絶すたつ
もしほの浦の
夕けふり
いかなる時に
思ひけたれん
たえすたつ
もしほのうらの
ゆふけふり
いかなるときに
おもひけたれん


よそにみて
袖やぬれなん
ひたちなる
たかまの浦の
おきつ白波
よそにみて
そでやぬれなん
ひたちなる
たかまのうらの
おきつしらなみ


いかにせん
しなはともにと
思ふ身の
おなしかきりの
命ならすは
いかにせん
しなはともにと
おもふみの
おなしかきりの
いのちならすは


うき世をは
花みてたにと
思へとも
なをすきかたく
春風そふく
うきよをは
はなみてたにと
おもへとも
なをすきかたく
はるかぜそふく


ときしらぬ
身とも思はし
秋くれは
たか袖よりも
露けかりけり
ときしらぬ
みともおもはし
あきくれは
たかそでよりも
つゆけかりけり


いつまてか
袖うちぬらし
沼水の
末もとをらぬ
物おもひけん
いつまてか
そでうちぬらし
ぬまみづの
すゑもとをらぬ
ものおもひけん


月出て
今こそかへれ
なこのえに
夕わするゝ
あまのつり舟
つきいでて
いまこそかへれ
なこのえに
ゆふべわするる
あまのつりふね


たらちねの
あらましかはと
思ふにそ
身のためまても
ねはなかれける
たらちねの
あらましかはと
おもふにそ
みのためまても
ねはなかれける


今まても
あるは思ひの
外なれは
身をなけくへき
ことはりもなし
いままても
あるはおもひの
ほかなれは
みをなけくへき
ことはりもなし


なにゆへに
いまゝて世には
ふる身そと
心のとへは
ねこそなかるれ
なにゆへに
いままてよには
ふるみそと
こころのとへは
ねこそなかるれ


雁なきて
山風さむし
秋の田の
かりほの庵の
むらさめの空
かりなきて
やまかぜさむし
あきのたの
かりほのいをの
むらさめのそら


逢事は
またをのつから
ありとても
頼みしもとの
心ちやはせん
あふごとは
またをのつから
ありとても
たのみしもとの
ここちやはせん


われすまて
花の都の
春霞
やとせははやく
へたゝりにけり
われすまて
はなのみやこの
はるかすみ
やとせははやく
へたたりにけり


憂たひの
身のあらましに
おもなれて
住心ちする
山のおくかな
うきたひの
みのあらましに
おもなれて
すむここちする
やまのおくかな


春の雨
秋の時雨と
世にふるは
花や紅葉の
ためにそ有ける
はるのあめ
あきのしぐれと
よにふるは
はなやもみぢの
ためにそありける