都人
知らずやいかに
山里の
花よりほかに
あるじありとは
みやこひと
しらずやいかに
やまざとの
はなよりほかに
あるじありとは


かきほより
荻の繁みを
傳ひ來て
こすの間寒き
秋風ぞ吹く
かきほより
をぎのしげみを
つたひきて
こすのまさむき
あきかぜぞふく


浦人の
こほりの上に
おく網の
沈むぞ月の
しるしなりける
うらひとの
こほりのうへに
おくあみの
しずむぞつきの
しるしなりける


朝あけの
干潟をかけて
しほつ山
吹き越す風に
つもる白雪
あさあけの
ひがたをかけて
しほつやま
ふきこすかぜに
つもるしらゆき


同じ世の
命の内の
道だにも
おくれ先だつ
ほどぞかなしき
おなじよの
いのちのうちの
みちだにも
おくれさきだつ
ほどぞかなしき


月ばかり
おくると人や
思ひけむ
我が心をも
そへし山路に
つきばかり
おくるとひとや
おもひけむ
わがこころをも
そへしやまぢに


月に行く
佐野の渡りの
秋の夜は
宿あり迚も
止りやはせむ
つきにゆく
さののわたりの
あきのよは
やどありまでも
とまりやはせむ


敷嶋の
道まもりける
神をしも
わが神垣と
おもふうれしさ
しきしまの
みちまもりける
かみをしも
わがかみかきと
おもふうれしさ


埋木の
さてや朽ちなむ
名取川
顯れぬべき
瀬々は過ぎにき
うもれきの
さてやくちなむ
なとりがは
あらはれぬべき
せぜはすぎにき


人目よく
道はさこそと
思へ共
慰めがたく
更くる夜半かな
ひとめよく
みちはさこそと
おもへとも
なぐさめがたく
ふくるよはかな


さらに又
あふを限りと
歎くかな
見しは昔の
夢になしつゝ
さらにまた
あふをかぎりと
なげくかな
みしはむかしの
ゆめになしつつ


石見潟
我身のよそに
こす浪の
さのみやとはに
懸て戀べき
いしみかた
わがみのよそに
こすなみの
さのみやとはに
かけてこひべき


志賀の蜑の
釣する袖は
みえわかで
霞む浪路に
歸る雁がね
しがのあまの
つりするそでは
みえわかで
かすむなみぢに
かへるかりがね


いとゞ又
ひかりやそはむ
白露に
月まち出づる
夕がほの花
いとどまた
ひかりやそはむ
しらつゆに
つきまちいづる
ゆふがほのはな


思のみ
滿ちゆく汐の
蘆分に
さはりも果てぬ
和歌のうら舟
おもひのみ
みちゆくしほの
あしわけに
さはりもはてぬ
わかのうらふね


賤しきも
よきも盛の
過ぎぬれば
老いて戀しき
昔なりけり
しづしきも
よきもさかりの
すぎぬれば
をいてこひしき
むかしなりけり


ある世にも
斯やはそひし
面影の
立ちも離れぬ
昨日けふ哉
あるよにも
かくやはそひし
おもかげの
たちもはなれぬ
きのふけふかな


今よりの
露をばつゆと
荻の葉に
泪かつちる
秋かぜぞ吹く
いまよりの
つゆをばつゆと
をぎのはに
なみだかつちる
あきかぜぞふく


白河の
關までゆかぬ
東路も
日かずへぬれば
秋かぜぞ吹く
しらかはの
せきまでゆかぬ
あづまぢも
ひかずへぬれば
あきかぜぞふく
И на путях
В востояный край Адзума,
До заставы Сиракава не дошёл
Так много дней прошло уже,
Осенний ветер дует.
Примерный перевод

さのみやは
さのゝ舟橋
同じ世に
命をかけて
戀ひ渡るべき
さのみやは
さののふねはし
おなじよに
いのちをかけて
こひわたるべき


思ひきや
よそに聞きこし
相坂を
別の道に
けふ越えむとは
おもひきや
よそにききこし
あふさかを
わかれのみちに
けふこえむとは


歸る雁
行くらむかたを
山の端の
霞のよそに
思ひやるかな
かへるかり
ゆくらむかたを
やまのはの
かすみのよそに
おもひやるかな


咲かぬより
立慣れて社
木の本に
待ける程も
花に知られめ
さかぬより
たなれてこそ
このもとに
まちけるほども
はなにしられめ


深山木の
しげみの櫻
咲きながら
枝に籠れる
花とこそ見れ
みやまぎの
しげみのさくら
さきながら
えだにこもれる
はなとこそみれ


櫻花
散らでもおなじ
手向山
ぬさとな吹きそ
春のゆふかぜ
さくらばな
ちらでもおなじ
たむけやま
ぬさとなふきそ
はるのゆふかぜ


尋ねばや
いはでの山の
谷水も
音たてつべき
五月雨のころ
たづねばや
いはでのやまの
たにみづも
おとたてつべき
さみだれのころ


浪かくる
小島の苫や
秋をへて
あるじも知らず
月や澄む覽
なみかくる
こじまのともや
あきをへて
あるじもしらず
つきやすむらん

*
河風に
有明の月を
待ち出でゝ
寐ぬ夜ふけぬる
宇治の橋姫
かはかぜに
ありあけのつきを
まちいでて
いぬよふけぬる
うぢのはしひめ


霜むすぶ
草の袂の
花ずゝき
まねく人目も
いまや枯れなむ
しもむすぶ
くさのたもとの
はなずすき
まねくひとめも
いまやかれなむ


訪ふ人を
まつと頼みし
梢さへ
うづもれはつる
雪のふる里
とふひとを
まつとたのみし
こずゑさへ
うづもれはつる
ゆきのふるさと


下をれの
音こそしげく
聞えけれ
志のだの杜の
千枝の白雪
したをれの
おとこそしげく
きこえけれ
しのだのもりの
ちえのしらゆき


冬深き
あこぎの海士の
藻鹽木に
雪つみそへて
さゆる浦風
ふゆふかき
あこぎのあまの
もしほきに
ゆきつみそへて
さゆるうらかぜ


鶯は
花の志るべを
もとむめり
咲くらむ方の
風もふかなむ
うぐひすは
はなのしるべを
もとむめり
さくらむかたの
かぜもふかなむ


逢ふことに
かへむ命を
省みず
唯身を捨てゝ
こふるはかなさ
あふことに
かへむいのちを
かへりみず
ただみをすてて
こふるはかなさ


涙添ふ
袖のみなとを
便りにて
月もうきねの
影やどしけり
なみだそふ
そでのみなとを
たよりにて
つきもうきねの
かげやどしけり


和歌の浦に
立てし誓の
宮柱
いく世もまもれ
しきしまの道
わかのうらに
たてしちかひの
みやはしら
いくよもまもれ
しきしまのみち


駒とむる
ひのくま河に
あらば社
戀しき人の
影をだにみめ
こまとむる
ひのくまかはに
あらばこそ
こひしきひとの
かげをだにみめ


僞の
まことにならむ
夕べまで
あはれ幾夜の
月かみるべき
いつはりの
まことにならむ
ゆふべまで
あはれいくよの
つきかみるべき


いづかたに
又秋風の
かはるらむ
靡きそめにし
小野の篠原
いづかたに
またあきかぜの
かはるらむ
なびきそめにし
をののしのはら


命をば
あふにかへてし
中なれば
ある物とだに
人は思はじ
いのちをば
あふにかへてし
なかなれば
あるものとだに
ひとはおもはじ


いかにみし
木の間の月の
名殘より
心づくしの
思そふらむ
いかにみし
このまのつきの
なごりより
こころづくしの
おもひそふらむ


ありて世の
うきを知ればや
山櫻
芳野の奥の
花となりけむ
ありてよの
うきをしればや
やまさくら
よしののおくの
はなとなりけむ


山里に
濁る水をば
せき入れじ
すまぬ心の
見えもこそすれ
やまざとに
にごるみづをば
せきいれじ
すまぬこころの
みえもこそすれ


神代より
相生の松も
けふしこそ
ありて千年の
かひも知るらめ
かみよより
あひおひのまつも
けふしこそ
ありてちとせの
かひもしるらめ


何をして
暮すともなき
月日かな
積る計りを
身に算へつゝ
なにをして
くらすともなき
つきひかな
つもるばかりを
みにかぞへつつ


霧晴るゝ
田面の末の
山の端に
月立ち出でゝ
秋かぜぞ吹く
きりはるる
たおものすゑの
やまのはに
つきたちいでて
あきかぜぞふく


入江なる
あしの霜枯
かりにだに
難波の冬を
とふ人もがな
いりえなる
あしのしもかれ
かりにだに
なにはのふゆを
とふひともがな


吉野山
奧よりつもる
志ら雪の
古郷ちかく
なりまさるかな
よしのやま
おくよりつもる
しらゆきの
ふるさとちかく
なりまさるかな


宿かさぬ
天の河原や
憂からまし
交野に花の
蔭なかりせば
やどかさぬ
あめのかはらや
うからまし
かたのにはなの
かげなかりせば


頼まじな
ことうら風に
行く舟の
片帆ばかりに
かゝる契は
たのまじな
ことうらかぜに
ゆくふねの
かたほばかりに
かかるちぎりは


越えぬなり
末の松山
すゑ遂に
かねて思ひし
人のあだなみ
こえぬなり
すゑのまつやま
すゑつひに
かねておもひし
ひとのあだなみ