暮るゝ間の
月待出づる
山の端に
かゝる雲なく
秋風ぞ吹く
くるるまの
つきまちいづる
やまのはに
かかるくもなく
あきかぜぞふく


風寒き
裾野のさとの
夕ぐれに
月待つ人や
ころもうつらむ
かぜさむき
すそののさとの
ゆふぐれに
つきまつひとや
ころもうつらむ


いかにして
泪と共に
もりぬらむ
袖の中なる
浮名ならぬに
いかにして
なみだとともに
もりぬらむ
そでのなかなる
うきなならぬに


色香をも
志る人ならぬ
我爲に
折るかひなしと
花や思はむ
いろかをも
しるひとならぬ
われために
をるかひなしと
はなやおもはむ


紅葉ばの
あけのそぼ舟
こぎよせよ
こゝを泊と
君も見る迄
もみぢばの
あけのそぼふね
こぎよせよ
ここをとまりと
きみもみるまで


仇野や
風まつ露を
よそに見て
消えむ物とも
身をば思はず
あだのや
かぜまつつゆを
よそにみて
きえむものとも
みをばおもはず


散らぬまに
越ゆべかりける
山路共
跡つけ難き
花に社しれ
ちらぬまに
こゆべかりける
やまぢとも
あとつけかたき
はなにこそしれ


夕暮の
木の志た風に
雨過ぎて
露もたまらぬ
蝉の羽ごろも
ゆふぐれの
このしたかぜに
あめすぎて
つゆもたまらぬ
せみのはごろも


更けゆけば
鐘の響も
あらし山
そらに聞えて
すめる月かな
ふけゆけば
かねのひびきも
あらしやま
そらにきこえて
すめるつきかな


いかゞせむ
長き習の
秋の夜も
月をし見れば
明くる易さを
いかがせむ
ながきならひの
あきのよも
つきをしみれば
あくるよすさを


夜寒なる
かりほの露の
いねがてに
山田をもると
衣うつ聲
よさむなる
かりほのつゆの
いねがてに
やまだをもると
ころもうつこゑ


通ふらむ
こと浦人の
寐覺まで
思ひ志られて
鳴く千鳥かな
かよふらむ
ことうらひとの
ねざめまで
おもひしられて
なくちとりかな


かりそめの
菖蒲にそへて
草枕
こよひ旅寢の
心地こそせね
かりそめの
あやめにそへて
くさまくら
こよひたびねの
ここちこそせね


終夜
もゆる螢に
身をなして
いかでおもひの
程もみせまし
よもすがら
もゆるほたるに
みをなして
いかでおもひの
ほどもみせまし


漏し侘び
むせぶ思の
ありとだに
誰れにいはせの
山の下水
もらしわび
むせぶおもひの
ありとだに
たれにいはせの
やまのしたみづ


志らせばや
みるめはからで
朝夕
に波こす袖
の恨ありとも
しらせばや
みるめはからで
あしたゆふ
になみこすそで
のうらありとも


いかにせむ
月の知べは
頼めども
契りし夜はと
思出でずば
いかにせむ
つきのしるべは
たのめども
ちぎりしよはと
おもひいでずば


今夜さへ
同じ人目を
いとふ哉
あふにまぎるゝ
泪ならねば
いまよさへ
おなじひとめを
いとふかな
あふにまぎるる
なみだならねば


なにゆゑに
袖ぬらすらむ
人心
あさ澤みづの
思ひ絶えなで
なにゆゑに
そでぬらすらむ
ひとこころ
あささはみづの
おもひたえなで


こぬまでも
心ひとつを
慰めて
頼みし程の
いつはりもなし
こぬまでも
こころひとつを
なぐさめて
たのみしほどの
いつはりもなし


おのづから
共に見し夜の
面かげも
昔になりぬ
秋のよの月
おのづから
ともにみしよの
おもかげも
むかしになりぬ
あきのよのつき


浦遠く
日かげのこれる
夕なぎに
浪間かすみて
歸る雁がね
うらとほく
ひかげのこれる
ゆふなぎに
なみまかすみて
かへるかりがね


吹き拂ふ
嵐のまゝに
顯はれて
木の間さだめぬ
月の影かな
ふきはらふ
あらしのままに
あらはれて
このまさだめぬ
つきのかげかな


秋の夜も
あまた旅寐の
草枕
露よりつゆに
むすび添へつゝ
あきのよも
あまたたびねの
くさまくら
つゆよりつゆに
むすびそへつつ


如何せむ
空に霞の
立つ名のみ
晴れぬ戀路に
迷ひ果てなば
いかにせむ
そらにかすみの
たつなのみ
はれぬこひぢに
まよひはてなば


契あれば
うき身乍らぞ
頼もしき
救はむ世々の
數に洩れじと
ちぎりあれば
うきみながらぞ
たのもしき
すくはむよよの
かずにもれじと


君が代に
又たちかへり
葵草
かけてぞ神の
めぐみをば知る
きみがよに
またたちかへり
あふひくさ
かけてぞかみの
めぐみをばしる


山颪の
櫻吹きまく
志賀のうらに
浮きて立ちそふ
花の小波
やまおろしの
さくらふきまく
しがのうらに
うきてたちそふ
はなのさざなみ


夕ぐれは
草葉の外の
おきどころ
ありとや袖に
かゝる白露
ゆふぐれは
くさばのほかの
おきどころ
ありとやそでに
かかるしらつゆ


夕されば
野田の稻葉の
穗並より
尾花をかけて
秋風ぞ吹く
ゆふされば
のたのいなばの
ほなみより
をはなをかけて
あきかぜぞふく


忘れずば
ゐせきの水に
影を見よ
思ふ心は
それにこそすめ
わすれずば
ゐせきのみづに
かげをみよ
おもふこころは
それにこそすめ


螢より
燃ゆといひても
頼まれず
光に見ゆる
思ひならねば
ほたるより
もゆといひても
たのまれず
ひかりにみゆる
おもひならねば


世の中は
苦しき物か
うきぬなは
うきをも下に
思ひ亂れて
よのなかは
くるしきものか
うきぬなは
うきをもしたに
おもひみだれて