時わかぬ
嵐も波も
いかなれば
今日あら玉の
春を知るらむ
ときわかぬ
あらしもなみも
いかなれば
けふあらたまの
はるをしるらむ
藤ばかま
着つゝなれ行く
旅人の
裾野の原に
あき風ぞ吹く
ふぢばかま
きつつなれゆく
たびひとの
すそののはらに
あきかぜぞふく
敷島や
山とび越えて
來る雁の
つばさあらはに
澄める月影
しきしまや
やまとびこえて
くるかりの
つばさあらはに
すめるつきかげ
かさゆひの
島立ち隱す
朝霧に
はや遠ざかる
棚なし小ぶね
かさゆひの
しまたちかくす
あさぎりに
はやとほざかる
たななしをぶね
楢柴や
枯葉の末に
雪散りて
とだちの原に
かへるかりびと
ならしばや
かれはのすゑに
ゆきちりて
とだちのはらに
かへるかりびと
我が戀は
いはせの森の
下草の
亂れてのみも
過ぐる比かな
わがこひは
いはせのもりの
したくさの
みだれてのみも
すぐるくらかな
つき草の
花の心や
うつるらむ
昨日にもにぬ
袖のいろかな
つきくさの
はなのこころや
うつるらむ
きのふにもにぬ
そでのいろかな
世のうきに
くらぶる時ぞ
山里は
松の嵐も
堪へてすまるゝ
よのうきに
くらぶるときぞ
やまざとは
まつのあらしも
たへてすまるる
春の野の
初子の松の
若葉より
さしそふ千代の
陰は見え鳬
はるののの
はつねのまつの
わかばより
さしそふちよの
かげはみえけり
春のきる
霞のつまや
籠るらむ
またわか草の
むさしのゝ原
はるのきる
かすみのつまや
こもるらむ
またわかくさの
むさしののはら
尋ぬらむ
梢に移る
こゝろかな
かはらぬ花を
月に見れども
たづぬらむ
こずゑにうつる
こころかな
かはらぬはなを
つきにみれども
夏草の
ふかき思ひも
ある物を
おのればかりと
飛ぶ螢かな
なつくさの
ふかきおもひも
あるものを
おのればかりと
とぶほたるかな
Так много,
Словно летние травы, может,
Есть мыслей грустных,
Что только он и знает,
У светлячка летающего!
小笹原
しのにみだれて
とぶ螢
今いく夜とか
秋を待つらむ
をささはら
しのにみだれて
とぶほたる
いまいくよとか
あきをまつらむ
На равнине,
Поросшей мелким бамбуком,
Меж стеблей летают светлячки...
Сколько теперь осталось
Ночей им ждать до осени?
萩がはな
うつろふ庭の
秋風に
下葉をまたで
露は散りつゝ
はぎがはな
うつろふにはの
あきかぜに
したばをまたで
つゆはちりつつ
В саду,
Где отцветают хаги
Осенний ветер,
Не дожидаясь листвы нижней
Сдувает росу...
橋姫の
たもとや色に
出でぬらむ
木葉流るゝ
うぢの網代木
はしひめの
たもとやいろに
いでぬらむ
このはながるる
うぢのあじろぎ
Не цвет ли
Рукавов проявился
Девы Моста,
Плывут листья
Меж вершей в Удзи.
人めより
軈てかれにし
我宿の
淺茅が霜ぞ
むすぼゝれ行く
ひとめより
やがてかれにし
わがやどの
あさぢがしもぞ
むすぼほれゆく
松さむき
みつの濱べの
さ夜千鳥
干潟の霜に
跡やつけつる
まつさむき
みつのはまべの
さよちとり
ひかたのしもに
あとやつけつる
Ночные тидори
На побережье Мицу
Где сосны холодны,
На инее на берегу в отлив
Следы свои оставили?
咲きて散る
花をもめでじ
是ぞこの
嵐に急ぐ
あだし世の中
さきてちる
はなをもめでじ
これぞこの
あらしにいそぐ
あだしよのなか
百敷や
庭のたちばな
思ひ出でゝ
更にむかしの
忍ばるゝ哉
ももしきや
にはのたちばな
おもひいでて
さらにむかしの
しのばるるかな
柞原
しぐるときけば
我が袖の
かひなき色ぞ
まづ變りける
ははそはら
しぐるときけば
わがそでの
かひなきいろぞ
まづかはりける
Услышал лишь,
Что на равнине Хахасо
Пошли дожди,
Попреж всего рукав мой
Цвет безысходности принял...
ひまとめて
爭でしらせむ
玉簾
けふよりかゝる
心ありとも
ひまとめて
いかでしらせむ
たますだれ
けふよりかかる
こころありとも
いくよとか
袖の志がらみ
せきもみむ
契りし人は
音無の瀧
いくよとか
そでのしがらみ
せきもみむ
ちぎりしひとは
おとなしのたき
うらみこし
人の心も
とけやらず
袖の氷に
はるはきぬれど
うらみこし
ひとのこころも
とけやらず
そでのこほりに
はるはきぬれど
山鳥の
をろの鏡に
あらね共
うき影みては
ねぞなかれける
やまどりの
をろのかがみに
あらねとも
うきかげみては
ねぞなかれける
つらしとて
人を恨みむ
ゆゑぞなき
我心なる
世をば厭はで
つらしとて
ひとをうらみむ
ゆゑぞなき
われこころなる
よをばいとはで
三笠山
さすや朝日の
松の葉に
かはらぬ春の
色は見えけり
みかさやま
さすやあさひの
まつのはに
かはらぬはるの
いろはみえけり
朝霧に
淀のわたりを
行く舟の
知らぬ別も
そでぬらしけり
あさぎりに
よどのわたりを
ゆくふねの
しらぬわかれも
そでぬらしけり
慕ひくる
影はたもとに
やつるとも
面變りすな
ふる里の月
しのひくる
かげはたもとに
やつるとも
おもかはりすな
ふるさとのつき
岩が根の
枕はさしも
馴れにしを
なにおどろかす
松の嵐ぞ
いはがねの
まくらはさしも
なれにしを
なにおどろかす
まつのあらしぞ
別れても
いく有明を
しのぶらむ
契りて出でし
ふる郷の月
わかれても
いくありあけを
しのぶらむ
ちぎりていでし
ふるさとのつき
潮垂るゝ
袖こそあらめ
蜑のすむ
恨みよとての
みるめなり鳬
しほたるる
そでこそあらめ
あまのすむ
うらみよとての
みるめなりけり
植ゑ置きし
梅のそのふや
荒れぬらむ
匂もよその
故郷の春
うゑおきし
うめのそのふや
あれぬらむ
にほひもよその
ふるさとのはる
陽炎の
をのゝ草葉の
枯しより
有るか無きかと
問ふ人もなし
かげろふの
をののくさばの
かれしより
あるかなきかと
とふひともなし
契りても
年の緒ながき
玉椿
かげにや千世の
數もこもれる
ちぎりても
としのをながき
たまつばき
かげにやちよの
かずもこもれる
春も未だ
あさる雉子の
跡見えで
むら〳〵殘る
野邊の白雪
はるもいまだ
あさるきぎすの
あとみえで
むらむらのこる
のべのしらゆき
霧にむせぶ
山の鶯
出でやらで
麓のはるに
まよふころかな
きりにむせぶ
やまのうぐひす
いでやらで
ふもとのはるに
まよふころかな
舟つなぐ
かぜも緑に
なりにけり
六田の淀の
玉のをやなぎ
ふねつなぐ
かぜもみどりに
なりにけり
むつたのよどの
たまのをやなぎ
淺みどり
初志ほ染むる
春雨に
野なる草木ぞ
色まさりける
あさみどり
はつしほそむる
はるさめに
のなるくさきぞ
いろまさりける
妹待つと
やまの雫に
立ちぬれて
そぼちにけらし
我が戀衣
いもまつと
やまのしずくに
たちぬれて
そぼちにけらし
わがこひころも
時わかぬ
泪に袖は
おもなれて
霞むも知らず
春の夜のつき
ときわかぬ
なみだにそでは
おもなれて
かすむもしらず
はるのよのつき
歎くとて
袖の露をば
誰れかとふ
思へばうれし
秋の夜の月
なげくとて
そでのつゆをば
たれかとふ
おもへばうれし
あきのよのつき
吹く風に
昔をのみや
忍ぶらむ
くにのみやこに
殘るたち花
ふくかぜに
むかしをのみや
しのぶらむ
くにのみやこに
のこるたちはな
大井川
しもは桂の
月かげに
磨きて落つる
瀬々のしらたま
おほゐかは
しもはかつらの
つきかげに
みがきておつる
せぜのしらたま
頼め置く
明日の命も
知らなくに
はかなき物は
契なりけり
たのめおく
あすのいのちも
しらなくに
はかなきものは
ちぎりなりけり
行き逢はむ
程をば知らず
住吉の
松の絶間の
ちぎの片そぎ
ゆきあはむ
ほどをばしらず
すみよしの
まつのたえまの
ちぎのかたそぎ
宵の間は
出でゝ拂はむと
思ひしに
先だつ袖の
露ぞ怪しき
よひのまは
いでてはらはむと
おもひしに
さきだつそでの
つゆぞあやしき
西へとや
御法の門を
教ふらむ
さきだちて行く
秋の夜の月
にしへとや
みのりのかどを
おしふらむ
さきだちてゆく
あきのよのつき
志ら浪の
跡こそ見えね
天のはら
霞のうらに
かへる雁がね
しらなみの
あとこそみえね
あめのはら
かすみのうらに
かへるかりがね
かぞふれば
涙の露も
止まらず
これや三十ぢの
秋のはつ風
かぞふれば
なみだのつゆも
とどまらず
これやみそぢの
あきのはつかぜ
呉竹の
みどりは時も
變らねば
時雨降りにし
眞垣ともなし
くれたけの
みどりはときも
かはらねば
しぐれふりにし
まがきともなし
龍田山
紅葉やまれに
なりぬらむ
河なみ白き
冬の夜のつき
たつたやま
もみぢやまれに
なりぬらむ
かはなみしらき
ふゆのよのつき
あさ霧に
淀のわたりを
行く舟の
知らぬ別も
袖は濡れけり
あさきりに
よどのわたりを
ゆくふねの
しらぬわかれも
そではぬれけり
春の花
秋の紅葉の
情だに
うき世にとまる
いろぞまれなる
はるのはな
あきのもみぢの
なさけだに
うきよにとまる
いろぞまれなる
雪のうちに
春はありとも
つげなくに
まづ知るものは
うぐひすのこゑ
ゆきのうちに
はるはありとも
つげなくに
まづしるものは
うぐひすのこゑ
いせのうみ
あまのはらなる
朝霞
そらにしほやく
けぶりとぞみる
いせのうみ
あまのはらなる
あさがすみ
そらにしほやく
けぶりとぞみる
みわたせば
松もまばらに
なりにけり
とほやま桜
さきにけらしも
みわたせば
まつもまばらに
なりにけり
とほやまさくら
さきにけらしも
宮木守
なしとや風も
さそふらむ
咲けばかつ散る
志賀の花苑
みやきもり
なしとやかぜも
さそふらむ
さけばかつちる
しがのはなぞの
波かくる
井手の山吹
さきしより
をられぬ水に
かはづなくなり
なみかくる
ゐでのやまぶき
さきしより
をられぬみづに
かはづなくなり
よしの河
かへらぬ春も
けふばかり
花のしがらみ
かけてだに堰け
よしのかは
かへらぬはるも
けふばかり
はなのしがらみ
かけてだにせけ
さなへとる
伏見の里に
雨すぎて
むかひの山に
雲ぞかかれる
さなへとる
ふしみのさとに
あめすぎて
むかひのやまに
くもぞかかれる
秋もなを
天の川原に
立浪の
よるそみしかき
星合の空
あきもなを
あまのかはらに
たつなみの
よるそみしかき
ほしあひのそら
秋の夜も
やゝ更にけり
山鳥の
おろの初尾に
かゝる月影
あきのよも
ややふけにけり
やまどりの
おろのはつをに
かかるつきかげ
人とはぬ
あさちか原の
秋風に
こゝろなかくも
松むしのなく
ひととはぬ
あさちかはらの
あきかぜに
こころなかくも
まつむしのなく
あさち原
はらはぬ霜の
ふる郷に
たれ我ためと
衣うつらん
あさちはら
はらはぬしもの
ふるさとに
たれわがためと
ころもうつらん
おく山の
千しほの紅葉
色そこき
宮この時雨
いかゝそむらん
おくやまの
ちしほのもみぢ
いろそこき
みやこのしぐれ
いかかそむらん
散つもる
紅葉に橋は
うつもれて
跡たえはつる
秋の故郷
ちりつもる
もみぢにはしは
うつもれて
あとたえはつる
あきのふるさと
紅葉はの
降かくしてし
我宿に
道もまとはす
冬はきにけり
もみぢはの
ふりかくしてし
わがやどに
みちもまとはす
ふゆはきにけり
光をは
玉くしの葉に
やはらけて
神の国とも
定てし哉
ひかりをは
たまくしのはに
やはらけて
かみのくにとも
さだめてしかな
榊とる
やそうち人の
袖の上に
神代をかけて
残る月影
さかきとる
やそうちひとの
そでのうへに
かみよをかけて
のこるつきかげ
あはてふる
涙の末や
まさるらん
いもせの山の
中の滝つ瀬
あはてふる
なみだのすゑや
まさるらん
いもせのやまの
なかのたきつせ
暁の
なみたはかりを
形見にて
わかるゝ袖に
したふ月影
あかつきの
なみたはかりを
かたみにて
わかるるそでに
したふつきかげ
夢ならて
又やかよはむ
白露の
おきわかれにし
まゝの継橋
ゆめならて
またやかよはむ
しらつゆの
おきわかれにし
ままのつぎはし
涙ちる
袖に玉まく
葛の葉に
秋風ふくと
とはゝこたへよ
なみだちる
そでにたままく
くずのはに
あきかぜふくと
とははこたへよ
むかしたか
住けん跡の
すて衣
岩ほの中に
苺そ残れる
むかしたか
すみけんあとの
すてころも
いはほのなかに
こけそのこれる
暁の
しきのはねかき
かきもあへし
我思ふことの
数をしらせは
あかつきの
しきのはねかき
かきもあへし
わがおもふことの
かずをしらせは
秋の色を
送りむかへて
雲の上に
なれにし月も
物忘すな
あきのいろを
おくりむかへて
くものうへに
なれにしつきも
ものわすれすな
春のはな
秋のもみちの
情たに
憂世にとまる
色そまれなる
はるのはな
あきのもみちの
なさけたに
うきよにとまる
いろそまれなる
朝あけの
霞の衣
ほしそめて
はるたちなるゝ
天のかく山
あさあけの
かすみのころも
ほしそめて
はるたちなるる
あまのかくやま
たかための
わかなならねと
わかしめし
野沢の水に
袖はぬれつゝ
たかための
わかなならねと
わかしめし
のさはのみづに
そではぬれつつ
白雪の
きえあへぬ野への
小松原
ひくてに春の
色は見えけり
しらゆきの
きえあへぬのへの
こまつはら
ひくてにはるの
いろはみえけり
昨日まて
なれし袂の
花のかに
かへまくおしき
夏衣かな
きのふまて
なれしたもとの
はなのかに
かへまくおしき
なつころもかな
あやめ生る
沼の岩かき
かきくもり
さもさみたるゝ
昨日今日哉
あやめあふる
ぬまのいはかき
かきくもり
さもさみたるる
きのふけふかな
たか袖の
匂ひを風の
さそひきて
花橘に
うつしそめけん
たかそでの
にほひをかぜの
さそひきて
はなたちばなに
うつしそめけん
むかしをは
花たちはなに
忍ひてん
行末をしる
袖のかもかな
むかしをは
はなたちはなに
しのひてん
ゆくすゑをしる
そでのかもかな
夕されは
籬の荻を
吹かせの
めに見ぬ秋を
しるなみた哉
ゆふされは
まがきのをぎを
ふくかせの
めにみぬあきを
しるなみたかな
露のぬき
あたにをるてふ
藤はかま
秋風またて
誰にかさまし
つゆのぬき
あたにをるてふ
ふぢはかま
あきかぜまたて
たれにかさまし
夕暮は
むくらの宿の
しら露も
思ひあれはや
袖にをくらん
ゆふぐれは
むくらのやどの
しらつゆも
おもひあれはや
そでにをくらん
深草や
たかふるさとゝ
しらねとも
昔忘れす
衣うつなり
ふかくさや
たかふるさとと
しらねとも
むかしわすれす
ころもうつなり
よそにゆく
秋の日数は
うつろへと
またしもうとき
庭の白菊
よそにゆく
あきのひかずは
うつろへと
またしもうとき
にはのしらきく
をきまよふ
霜の下草
かれそめて
昨日は秋と
みえぬ野へかな
をきまよふ
しものしたくさ
かれそめて
きのふはあきと
みえぬのへかな
いつれそと
草のゆかりも
とひわひぬ
霜かれはつる
むさしのゝ原
いつれそと
くさのゆかりも
とひわひぬ
しもかれはつる
むさしののはら
夕暮の
浦もさためす
鳴千とり
いかなるあまの
袖ぬらすらん
ゆふぐれの
うらもさためす
なくちとり
いかなるあまの
そでぬらすらん
をしなへて
しくれしまては
つれなくて
霰におつる
柏木の森
をしなへて
しくれしまては
つれなくて
あられにおつる
かしはぎのもり
はし鷹の
すゝのしの原
狩くれて
入日の岡に
きゝす鳴なり
はしたかの
すすのしのはら
かりくれて
いりひのをかに
ききすなくなり
誰ゆへに
ちりにましはる
光そと
とはゝや神の
いかゝこたへん
たれゆへに
ちりにましはる
ひかりそと
とははやかみの
いかかこたへん
むねの月
心の水も
よな〳〵の
しつかなるにそ
すみはしめける
むねのつき
こころのみづも
よなよなの
しつかなるにそ
すみはしめける
鳥の音に
猶やまかけの
くらけれは
明てをこえん
あしからの関
とりのねに
なほやまかけの
くらけれは
あけてをこえん
あしからのせき
吹風の
めに見ぬかたを
都とて
しのふもかなし
夕くれの空
ふくかぜの
めにみぬかたを
みやことて
しのふもかなし
ゆふくれのそら
しら雲を
そらなる物と
思ひしは
また山こえぬ
みやこなりけり
しらくもを
そらなるものと
おもひしは
またやまこえぬ
みやこなりけり
くれなゐの
こそめの衣
ふり出て
心の色を
しらせつるかな
くれなゐの
こそめのころも
ふりいでて
こころのいろを
しらせつるかな
とへかしな
槙たつ山の
夕しくれ
色こそ見えね
ふかきこゝろを
とへかしな
まきたつやまの
ゆふしくれ
いろこそみえね
ふかきこころを
信濃なる
あさまの山の
浅からぬ
思ひの末そ
けふりともなる
しなのなる
あさまのやまの
あさからぬ
おもひのすゑそ
けふりともなる
きぬ〳〵の
別やさても
かなしきと
あかつきしらぬ
鳥の音もかな
きぬきぬの
わかやさても
かなしきと
あかつきしらぬ
とりのねもかな
呉竹の
よゝの契りも
しられけり
うきふししけき
恋のむくひに
くれたけの
よよのちぎりも
しられけり
うきふししけき
こひのむくひに
恋をのみ
しつのをた巻
いやしきも
思ひはおなし
涙なりけり
こひをのみ
しつのをたまき
いやしきも
おもひはおなし
なみだなりけり
霞にも
ふしの煙は
まかひけり
にたる物なき
我おもひかな
かすみにも
ふしのけぶりは
まかひけり
にたるものなき
わがおもひかな
帰るかり
雲ゐはたれも
なれしかと
うらやましきは
春の通路
かへるかり
くもゐはたれも
なれしかと
うらやましきは
はるのかよひぢ
山のはに
やゝ入ぬへき
春の日の
こゝろなかきも
かきりこそあれ
やまのはに
ややいりぬへき
はるのひの
こころなかきも
かきりこそあれ
みそきする
袂にふるゝ
大ぬさの
ひくてあまたに
なひく河風
みそきする
たもとにふるる
おほぬさの
ひくてあまたに
なひくかはかぜ
いなみ野や
山本とをく
みわたせは
お花にましる
松のむら立
いなみのや
やまもととをく
みわたせは
おはなにましる
まつのむらたち
山ふかく
すむにもよらぬ
心かな
つらき世をのみ
猶しのひつゝ
やまふかく
すむにもよらぬ
こころかな
つらきよをのみ
なほしのひつつ
雲居より
やとりなれにし
秋の月
いかにかはれる
涙とかしる
くもゐより
やとりなれにし
あきのつき
いかにかはれる
なみだとかしる
おはたゝの
みやのふる道
いかならん
絶にし後は
夢のうき橋
おはたたの
みやのふるみち
いかならん
たえにしのちは
ゆめのうきはし
夕暮の
なからましかは
しら雲の
うはの空なる
物はおもはし
ゆふぐれの
なからましかは
しらくもの
うはのそらなる
ものはおもはし
浮世には
かゝれとてこそ
むまれけめ
ことはりしらぬ
わかなみた哉
うきよには
かかれとてこそ
むまれけめ
ことはりしらぬ
わかなみたかな
あさ霧に
淀のわたりを
ゆく舟の
しらぬ別も
袖ぬらしけり
あさきりに
よどのわたりを
ゆくふねの
しらぬわかれも
そでぬらしけり
苔深き
ほらの秋風
吹過て
ふるき檜原の
音そかなしき
こけふかき
ほらのあきかぜ
ふきすぎて
ふるきひばらの
おとそかなしき
深山路や
暁かけて
なく鹿の
声するかたに
月そかたふく
みやまぢや
あかつきかけて
なくしかの
こゑするかたに
つきそかたふく
窓ちかき
むかひの山に
霧晴て
あらはれわたる
檜原まきはら
まどちかき
むかひのやまに
きりはれて
あらはれわたる
ひばらまきはら
村雲の
絶ま〳〵に
星みえて
時雨をはらふ
庭の松風
むらくもの
たえまたえまに
ほしみえて
しぐれをはらふ
にはのまつかぜ
雲ゐ行
つはさもさえて
とふ鳥の
あすかみゆきの
ふる郷の空
くもゐゆく
つはさもさえて
とふとりの
あすかみゆきの
ふるさとのそら
宮城野や
枯葉たになき
萩かえに
おれぬはかりも
つもる白雪
みやぎのや
かれはたになき
はぎかえに
おれぬはかりも
つもるしらゆき
楫をたえ
おほ海のはらに
行舟の
跡はかもなき
世をいかにせん
かぢをたえ
おほうみのはらに
ゆくふねの
あとはかもなき
よをいかにせん
軒ちかき
籬の竹の
末葉より
忍ふにかよふ
さゝかにの糸
のきちかき
まがきのたけの
すゑはより
しのふにかよふ
ささかにのいと
昔より
うき世の中と
聞しかと
けふは我身の
ためにそ有ける
むかしより
うきよのなかと
きしかと
けふはわがみの
ためにそありける