わけぬるゝ
野原の露の
袖の上に
まづ志る物は
秋の夜の月
わけぬるる
のはらのつゆの
そでのうへに
まづしるものは
あきのよのつき


つれなさの
例はありと
吉野川
いはとがしはを
あらふ白浪
つれなさの
ためしはありと
よしのかは
いはとがしはを
あらふしらなみ


さしも草
もゆる伊吹の
山のはの
いつ共わかぬ
心なりけり
さしもくさ
もゆるいぶきの
やまのはの
いつともわかぬ
こころなりけり


志がらきの
そま山櫻
春毎に
いく世宮木に
もれて咲くらむ
しがらきの
そまやまさくら
はるごとに
いくよみやきに
もれてさくらむ


眞柴かる
道や絶えなむ
山賤の
いやしきふれる
夜はの白雪
ましばかる
みちやたえなむ
やまがつの
いやしきふれる
よはのしらゆき


宵のまの
月待ちいづる
山の端に
こゑもほのめく
子規かな
よひのまの
つきまちいづる
やまのはに
こゑもほのめく
ほととぎすかな


世をすつる
數にさへ社
洩にけれ
うき身の末を
猶頼むとて
よをすつる
かずにさへこそ
もれにけれ
うきみのすゑを
なほたのむとて


降り積る
梢の雪や
こほるらし
朝日も洩らぬ
庭のまつが枝
ふりつもる
こずゑのゆきや
こほるらし
あさひももらぬ
にはのまつがえ


泊り舟
入りぬる磯の
波の音に
こよひも夢は
みらく少なし
とまりふね
いりぬるいその
なみのおとに
こよひもゆめは
みらくすくなし


ことに出でゝ
哀昔と
云はるゝも
更に身の憂き
時にぞ有ける
ことにいでて
あはれむかしと
いはるるも
さらにみのうき
ときにぞあける


其の際
は唯夢との
み惑はれ
て覺むる日數に
添ふ名殘かな
そのきはは
ただゆめとのみ
まどはれて
さむるひかずに
そふなごりかな


なかめ侘
月のさそふに
まかすれは
いつくにとまる
心ともなし
なかめわび
つきのさそふに
まかすれは
いつくにとまる
こころともなし