音羽山
花咲きぬらし
逢坂の
せきのこなたに
匂ふはるかぜ
おとはやま
はなさきぬらし
あふさかの
せきのこなたに
にほふはるかぜ


小萩原
夜寒の露の
おきもせず
ねもせで鹿や
妻を戀ふらむ
こはぎはら
よさむのつゆの
おきもせず
ねもせでしかや
つまをこふらむ


雲拂ふ
夕風わたる
篠の葉の
みやまさやかに
出づる月かげ
くもはらふ
ゆふかぜわたる
しののはの
みやまさやかに
いづるつきかげ


津の國の
生田の杜に
人はこで
月に言とふ
夜はのあきかぜ
つのくにの
いくたのもりに
ひとはこで
つきにこととふ
よはのあきかぜ


槇のやに
積る木葉を
今朝見ずば
時雨とのみぞ
思果てまし
まきのやに
つもるこのはを
けさみずば
しぐれとのみぞ
おもひはてまし


おろかなる
人の涙に
いつなれて
霰も袖の
たまと見ゆらむ
おろかなる
ひとのなみだに
いつなれて
あられもそでの
たまとみゆらむ


あらち山
裾野の淺茅
枯しより
峯には雪の
ふらぬ日もなし
あらちやま
すそののあさぢ
かれしより
みねにはゆきの
ふらぬひもなし


いかにせむ
とまらぬ春の
別にも
勝りて惜しき
人の名殘は
いかにせむ
とまらぬはるの
わかれにも
まさりてをしき
ひとのなごりは


憂くつらき
雲の隔ては
現にて
思ひなぐさむ
夢だにも見ず
うくつらき
くものへだては
うつつにて
おもひなぐさむ
ゆめだにもみず


心なる
道だに旅は
悲しきに
風にまかせて
出づるふなびと
こころなる
みちだにたびは
かなしきに
かぜにまかせて
いづるふなびと
Даже от пути,
Что только в сердце ещё,
В глубокой печали,
Доверяясь ветру
Отправляются мореходы.

露霜の
消えてぞ色は
増りける
朝日に向ふ
みねのもみぢ葉
つゆしもの
きえてぞいろは
まさりける
あさひにむかふ
みねのもみぢは
И цвет сильней,
Чем у исчезнувших
Росы и инея,
У обращённой к утреннему солнцу
Осенней листвы с вершины.

住吉の
浦わの松の
わかみどり
久しかれとや
神もうゑけむ
すみよしの
うらわのまつの
わかみどり
ひさしかれとや
かみもうゑけむ


あぢきなく
いつまで物を
思へとて
うきに殘れる
命なる覽
あぢきなく
いつまでものを
おもへとて
うきにのこれる
いのちなるらん


つらかりし
時社あらめ
逢見ての
後さへ物は
などや悲しき
つらかりし
ときこそあらめ
あひみての
のちさへものは
などやかなしき


いたづらに
年のみこえて
あふ坂の
關は昔の
道となりにき
いたづらに
としのみこえて
あふさかの
せきはむかしの
みちとなりにき


恨みこし
心も今は
なき物を
たゞ戀しさの
ねのみなかれて
うらみこし
こころもいまは
なきものを
ただこひしさの
ねのみなかれて


いつまでか
あやめ計の
長きねを
泪も志らぬ
袖にかけゝむ
いつまでか
あやめばかりの
ながきねを
なみだもしらぬ
そでにかけけむ


限ぞと
聞くぞ悲しき
あだし世の
別はさらぬ
習ひなれども
かぎりぞと
きくぞかなしき
あだしよの
わかれはさらぬ
ならひなれども


浦とほき
難波の春の
夕なぎに
入り日かすめる
あはぢ島山
うらとほき
なにはのはるの
ゆふなぎに
いりひかすめる
あはぢしまやま
Далека бухта
Нанива, и в весеннем
Вечернем штиле
Затянуло дымкой туманной
Заходящее за гору острова Авадзи солнце.

花の香は
そこともしらず
匂ひきて
遠山かすむ
春の夕ぐれ
はなのかは
そこともしらず
にほひきて
とほやまかすむ
はるのゆふぐれ


待ちわびて
今宵も明ぬ
時鳥
たがつれなさに
ねを習ひけむ
まちわびて
こよひもあかぬ
ほととぎす
たがつれなさに
ねをならひけむ


夜は燃え
晝は消え行く
螢哉
衛士のたく火に
いつ習ひけむ
よるはもえ
ひるはきえゆく
ほたるかな
ゑじのたくひに
いつならひけむ


船よする
をちかた人の
袖見えて
夕霧うすき
秋のかはなみ
ふねよする
をちかたひとの
そでみえて
ゆふぎりうすき
あきのかはなみ


よそまでは
何か厭はむ
かつらぎや
月にかゝらぬ
峰の白雲
よそまでは
なにかいとはむ
かつらぎや
つきにかからぬ
みねのしらくも


めぐり逢ふ
春も昔の
夜はの月
かはらぬそでの
涙にぞみる
めぐりあふ
はるもむかしの
よはのつき
かはらぬそでの
なみだにぞみる


いか計
高野のおくの
しぐるらむ
都は雲の
はるゝまもなし
いかばかり
たかののおくの
しぐるらむ
みやこはくもの
はるるまもなし
Как так?
Наверное, в глубинах Такано
Льёт дождь,
В столице тоже
Меж туч ни просвета.

露拂ふ
朝げの袖は
ひとへにて
秋風さむし
さやのなかやま
つゆはらふ
あさげのそでは
ひとへにて
あきかぜさむし
さやのなかやま


立ちまよふ
湊の霧の
あけがたに
松原みえて
月ぞのこれる
たちまよふ
みなとのきりの
あけがたに
まつはらみえて
つきぞのこれる
На рассвете,
Когда туман осенний
Поднялся и блуждает,
Остались видимыми лишь
Сосновый лес и луна.


いはぬをば
知らぬ習と
思ひしに
泪ばかりの
などかゝる覽
いはぬをば
しらぬならひと
おもひしに
なみだばかりの
などかかるらん


思ふにも
よらぬ命の
つれなさは
猶長らへて
戀やわたらむ
おもふにも
よらぬいのちの
つれなさは
なほながらへて
こひやわたらむ


かくこひむ
報を人の
思はでや
後の世志らず
つれなかる覽
かくこひむ
むくひをひとの
おもはでや
のちのよしらず
つれなかるらん


待ちわびて
獨ながむる
夕暮は
いかに露けき
袖とかは知る
まちわびて
ひとりながむる
ゆふぐれは
いかにつゆけき
そでとかはしる


今こむと
頼めし人の
いつはりを
いく有明の
月に待つらむ
いまこむと
たのめしひとの
いつはりを
いくああかりの
つきにまつらむ


いかにして
現のうさと
なりにけむ
見しや昔の
ゆめの通路
いかにして
うつつのうさと
なりにけむ
みしやむかしの
ゆめのかよひぢ


いくたびか
心のうちに
背くらむ
誠にすてぬ
此世なれども
いくたびか
こころのうちに
そむくらむ
まことにすてぬ
このよなれども


憂身こそ
かはりはつとも
世中の
人の心の
むかしなりせば
うきみこそ
かはりはつとも
よのなかの
ひとのこころの
むかしなりせば


雪と降る
花を越路の
空とみて
志ばしはとまれ
春の雁がね
ゆきとふる
はなをこしぢの
そらとみて
しばしはとまれ
はるのかりがね


今朝みれば
露ぞ隙なき
芦のやの
こやの一夜に
秋や來ぬ覽
けさみれば
つゆぞひまなき
あしのやの
こやのひとよに
あきやきぬらん


小倉山
峰の秋風
ふかぬ日は
あれども鹿の
鳴かぬ夜はなし
をぐらやま
みねのあきかぜ
ふかぬひは
あれどもしかの
なかぬよはなし


更け行けば
松風さむし
大伴の
三津のとまりの
秋の夜の月
ふけゆけば
まつかぜさむし
おほともの
みつのとまりの
あきのよのつき


藻鹽やく
烟を雲の
便りにて
しぐれをいそぐ
須磨のうら風
もしほやく
けぶりをくもの
たよりにて
しぐれをいそぐ
すまのうらかぜ


笹枕
いく野の末に
むすび來ぬ
一夜ばかりの
露のちぎりを
ささまくら
いくののすゑに
むすびこぬ
ひとよばかりの
つゆのちぎりを


いつよりか
秋の紅葉の
くれなゐに
涙の色の
習ひそめけむ
いつよりか
あきのもみぢの
くれなゐに
なみだのいろの
ならひそめけむ


あはれとも
大方にこそ
思ひしか
今はうき身の
秋の夕ぐれ
あはれとも
おほかたにこそ
おもひしか
いまはうきみの
あきのゆふぐれ


大井河
鵜舟はそれと
みえわかで
山もと廻る
かゞり火の影
おほゐかは
うふねはそれと
みえわかで
やまもとめぐる
かがりひのかげ


入方の
影こそやがて
霞みけれ
春にかゝれる
ありあけの月
いりかたの
かげこそやがて
かすみけれ
はるにかかれる
ありあけのつき


見渡せば
雲間の日影
移ろひて
むら〳〵かはる
山の色かな
みわたせば
くもまのひかげ
うつろひて
むらむらかはる
やまのいろかな


見渡せば
つま木の道の
松陰に
柴よせかけて
やすむやま人
みわたせば
つまきのみちの
まつかげに
しばよせかけて
やすむやまひと


そむくとも
猶や心の
殘らまし
世に忘られぬ
我身なりせば
そむくとも
なほやこころの
のこらまし
よにわすられぬ
わがみなりせば


悲しさは
我がまだしらぬ
別にて
心もまどふ
志のゝめの道
かなしさは
わがまだしらぬ
わかれにて
こころもまどふ
しののめのみち


見し人の
昨日の烟
今日の雲
立ちも止らぬ
世にこそ有けれ
みしひとの
きのふのけぶり
けふのくも
たちもとまらぬ
よにこそあけれ


天の河
思ふがなかに
船はあれど
かちより行くか
鵲のはし
あまのかは
おもふがなかに
ふねはあれど
かちよりゆくか
かささぎのはし


更け行けば
月影寒し
かさゝぎの
夜渡る橋に
霜や冴ゆらむ
ふけゆけば
つきかげさむし
かささぎの
よわたるはしに
しもやさゆらむ


更け行けば
山おろし冴えて
漣の
比良の湊に
千鳥なくなり
ふけゆけば
やまおろしさえて
さざなみの
ひらのみなとに
ちとりなくなり


三年迄
なれしさへこそ
うかりけれ
せめて別の
惜しき餘に
みとしまで
なれしさへこそ
うかりけれ
せめてわかれの
をしきあまりに


はかなくも
これを形見と
慰めて
身に添ふ物は
涙なりけり
はかなくも
これをかたみと
なぐさめて
みにそふものは
なみだなりけり


こぬまでも
慰むものを
僞の
なき世なれとは
誰か云ひけむ
こぬまでも
なぐさむものを
いつはりの
なきよなれとは
たれかいひけむ


心なき
春のあらしも
山里の
ぬしある花は
よきて吹かなむ
こころなき
はるのあらしも
やまざとの
ぬしあるはなは
よきてふかなむ


寂しくて
人くともなき
山ざとに
いつはりしける
鶯のこゑ
さびしくて
ひとくともなき
やまざとに
いつはりしける
うぐひすのこゑ


霜雪に
埋もれてのみ
見し野邊の
若菜摘む迄
なりにける哉
しもゆきに
うづもれてのみ
みしのべの
わかなつむまで
なりにけるかな


ためのこし
人の玉章
今はとて
かへすに似たる
春の雁がね
ためのこし
ひとのたまづさ
いまはとて
かへすににたる
はるのかりがね


いまよりの
誰が手枕も
夜寒にて
入野の薄
あきかぜぞ吹く
いまよりの
たがたまくらも
よさむにて
いりののすすき
あきかぜぞふく


この里は
村雨降りて
雁がねの
聞ゆる山に
あきかぜぞ吹く
このさとは
むらさめふりて
かりがねの
きこゆるやまに
あきかぜぞふく


故郷の
垣ほの蔦も
いろづきて
河原のまつに
秋かぜぞ吹く
ふるさとの
かきほのつたも
いろづきて
かはらのまつに
あきかぜぞふく


秋よりも
音ぞ寂しき
神無月
あらぬ時雨や
降りかはるらむ
あきよりも
おとぞさびしき
かみなづき
あらぬしぐれや
ふりかはるらむ


三吉野も
同じ浮世の
山なれば
あだなる色に
花ぞ咲きける
みよしのも
おなじうきよの
やまなれば
あだなるいろに
はなぞさきける


秋の空
如何に詠めし
名殘とて
今朝も時雨の
袖ぬらすらむ
あきのそら
いかにながめし
なごりとて
けさもしぐれの
そでぬらすらむ


さらぬ世の
ならひをつらき
限にて
命の内は
別れずもがな
さらぬよの
ならひをつらき
かぎりにて
いのちのうちは
わかれずもがな


厭ひても
後を如何にと
思ふこそ
猶世に止まる
心なりけれ
いとひても
のちをいかにと
おもふこそ
なほよにとまる
こころなりけれ


いづくにも
春は來ぬれど
朝日さす
高嶺よりこそ
雪は消ゆらめ
いづくにも
はるはこぬれど
あさひさす
たかねよりこそ
ゆきはきゆらめ


神も又
捨てぬ道とは
頼めども
哀れ知るべき
言の葉ぞ無き
かみもまた
すてぬみちとは
たのめども
あはれしるべき
ことのはぞなき