千早振
神だに消たぬ
思ひとや
御手洗川に
ほたる飛ぶらむ
ちはやふる
かみだにきたぬ
おもひとや
みてあらかはに
ほたるとぶらむ
胸にみつ
思ひはあれど
富士の嶺の
烟ならねば
知る人もなし
むねにみつ
おもひはあれど
ふじのねの
けぶりならねば
しるひともなし
いかにして
契りし事を
忘まし
頼むより社
つらさをもしれ
いかにして
ちぎりしことを
わすれまし
たのむよりこそ
つらさをもしれ
花もまた
にほはぬ比の
あさな〳〵
なけやうくひす
春と思はん
はなもまだ
にほはぬころの
あさなあさな
なけやうぐひす
はるとおもはん
我がための
聲にもあらじ
郭公
語らへとしも
など思ふらむ
わがための
こゑにもあらじ
ほととぎす
かたらへとしも
などおもふらむ
幾夜われ
おしあけ方の
月影に
ことわりならぬ
物思ふらむ
いくよわれ
おしあけかたの
つきかげに
ことわりならぬ
ものおもふらむ
花もまだ
匂はぬ程の
朝な〳〵
鳴けやうぐひす
春と思はむ
はなもまだ
にほひはぬほどの
あさなあさな
なけやうぐひす
はるとおもはむ
いかにせん
ふしの煙の
年ふれと
わするゝ程に
ならぬ思ひを
いかにせん
ふしのけぶりの
としふれと
わするるほどに
ならぬおもひを
をのつから
思あはする
人もあらは
かたらぬ夢の
世にやもりなん
をのつから
おもひあはする
ひともあらは
かたらぬゆめの
よにやもりなん
吹風の
さらぬならひも
忘られて
ちよもとなけく
花のかけ哉
ふくかぜの
さらぬならひも
わすられて
ちよもとなけく
はなのかけかな
とへかしな
庭の秋はき
露けさの
是よりまさる
宿はあらしを
とへかしな
にはのあきはき
つゆけさの
これよりまさる
やどはあらしを
さらすとて
袖やはかはく
神無月
なにと時雨の
ふりてはるらん
さらすとて
そでやはかはく
かみなづき
なにとしぐれの
ふりてはるらん
あすしらぬ
身には頼ます
をのつから
契りしまゝの
日数なりとも
あすしらぬ
みにはたのます
をのつから
ちぎりしままの
ひかずなりとも
うき身をは
わすれはつとも
契をきし
わかいつはりや
思ひ出らん
うきみをは
わすれはつとも
ちぎりをきし
わかいつはりや
おもひいづらん
いるかたを
うき世の外に
なくさめて
月に心の
やみははるけよ
いるかたを
うきよのほかに
なくさめて
つきにこころの
やみははるけよ
身のうさの
心にあまる
時にこそ
涙は袖に
おちはしめけれ
みのうさの
こころにあまる
ときにこそ
なみだはそでに
おちはしめけれ
なには江や
何につけても
あしのねの
うき身の程そ
哀也ける
なにはえや
なににつけても
あしのねの
うきみのほどそ
あはれなりける