程もなく
雲のこなたに
出でにけり
嵐にむかふ
山の端の月
ほどもなく
くものこなたに
いでにけり
あらしにむかふ
やまのはのつき


頼むるを
命になして
すぐす身は
僞りかとも
よしや思はじ
たのむるを
いのちになして
すぐすみは
いつはりかとも
よしやおもはじ


あづさ弓
心のひくに
任せずば
今もすぐなる
世にや返らむ
あづさゆみ
こころのひくに
まかせずば
いまもすぐなる
よにやかへらむ


あだに咲く
花のつらさに
習はずは
散らぬより先
物は思はじ
あだにさく
はなのつらさに
ならはずは
ちらぬよりさき
ものはおもはじ


山風の
さむき朝げの
峰こえて
いくつら過ぎぬ
秋の雁がね
やまかぜの
さむきあさげの
みねこえて
いくつらすぎぬ
あきのかりがね


頼まじな
命もしらぬ
世の中に
人の契りは
まことなりとも
たのまじな
いのちもしらぬ
よのなかに
ひとのちぎりは
まことなりとも


忘れ草
心なるべき
種だにも
我が身になどか
任せざるらむ
わすれくさ
こころなるべき
たねだにも
わがみになどか
まかせざるらむ


あふさかの
山の櫻や
咲きぬらむ
雲間に見ゆる
關の杉むら
あふさかの
やまのさくらや
さきぬらむ
くもまにみゆる
せきのすぎむら


行く末に
さてもや人の
忍ぶとて
わが袖觸るゝ
軒のたち花
ゆくすゑに
さてもやひとの
しのぶとて
わがそでふるる
のきのたちはな


長らへて
有りはつまじき
理を
思ふよりこそ
浮世なりけれ
ながらへて
ありはつまじき
ことはりを
おもふよりこそ
うきよなりけれ


けふは又
永き別れを
したひてや
秋より後も
鹿の鳴くらむ
けふはまた
ながきわかれを
したひてや
あきよりのちも
しかのなくらむ


絶々の
雲間に傳ふ
かげにこそ
行くとも見ゆれ
秋の夜の月
たえだえの
くもまにつたふ
かげにこそ
ゆくともみゆれ
あきのよのつき


なき名とも
人にはいはじ
其をだに
つらきが中の
思出にして
なきなとも
ひとにはいはじ
それをだに
つらきがなかの
おもいでにして


山の端に
かたぶく方を
都とて
心におくる
ありあけのつき
やまのはに
かたぶくかたを
みやことて
こころにおくる
ありあけのつき


とゝまらぬ
わかれのみかは
花鳥の
名残につけて
おしき春哉
ととまらぬ
わかれのみかは
はなとりの
なごりにつけて
おしきはるかな


晴やらぬ
雲より風は
もらねとも
月夜はしるし
五月雨の空
はやらぬ
くもよりかぜは
もらねとも
つきよはしるし
さみだれのそら


清見かた
波路の霧は
はれにけり
夕日にのこる
みほの浦松
きよみかた
なみぢのきりは
はれにけり
ゆふひにのこる
みほのうらまつ


草のうへは
猶冬かれの
色みえて
道のみしろき
野への朝霜
くさのうへは
なほふゆかれの
いろみえて
みちのみしろき
のへのあさしも


露わけし
袖になれきて
秋の月
都も旅の
涙をそとふ
つゆわけし
そでになれきて
あきのつき
みやこもたびの
なみだをそとふ