今は早
若菜摘むらし
かげろふの
もゆる春日の
野邊の里人
いまははや
わかなつむらし
かげろふの
もゆるかすがの
のべのさとひと
身を去らぬ
心の月に
雲晴れて
いつか誠の
かげも見るべき
みをさらぬ
こころのつきに
くもはれて
いつかまことの
かげもみるべき
神もしれ
つきすむ夜半の
五十鈴河
ながれて清き
底の心を
かみもしれ
つきすむよはの
いすずかは
ながれてきよき
そこのこころを
思ひやれ
老いて慰む
花だにも
萎るゝけさの
雨のつらさを
おもひやれ
をいてなぐさむ
はなだにも
しほるるけさの
あめのつらさを
いつかわれ
涙にぬるゝ
影ならで
袖より外の
月を見るべき
いつかわれ
なみだにぬるる
かげならで
そでよりほかの
つきをみるべき
契あらば
又やたづねむ
吉野やま
露わけわびし
すゞの下道
ちぎりあらば
またやたづねむ
よしのやま
つゆわけわびし
すずのしたみち
花をそき
外山の春の
朝ほらけ
かすめるほかは
又色もなし
はなおそき
とやまのはるの
あさぼらけ
かすめるほかは
またいろもなし
Цветами поздна
Весна в ближних горах.
На рассвете раннем
Кроме тумана
Ничего цветного нет.
香をとめて
とはれやすると
我宿の
梅の立枝に
春風ぞ吹く
かをとめて
とはれやすると
わがやどの
うめのたえだに
はるかぜぞふく
咲きつゞく
花はそれとも
見えわかで
霞のまより
匂ふ白雲
さきつづく
はなはそれとも
みえわかで
かすみのまより
にほふしらくも
かすむ夜の
月にぞさらに
忍ばるゝ
忘るばかりの
春の昔は
かすむよの
つきにぞさらに
しのばるる
わするばかりの
はるのむかしは
我が爲は
初音なれども
ほとゝぎす
誰か二度
今は聞くらむ
わがためは
はつねなれども
ほととぎす
たれかふたたび
いまはきくらむ
今更に
何かうしとも
わきていはむ
思ひのみそふ
秋の夕暮
いまさらに
なにかうしとも
わきていはむ
おもひのみそふ
あきのゆふぐれ
秋霧に
立ち隱れつゝ
鳴く鹿は
人目よきてや
妻を戀ふらむ
あききりに
たちかくれつつ
なくしかは
ひとめよきてや
つまをこふらむ
В осеннем тумане
Прячется всё время
Кричащий олень,
Возможно, избегая глаз людских,
Он о своей жене тоскует!
秋ふかき
まがきは霜の
色ながら
老せぬものと
匂ふ志ら菊
あきふかき
まがきはしもの
いろながら
おいせぬものと
にほふしらきく
津の國の
こやの葦ぶき
埋れて
雪のひまだに
見えぬ頃かな
つのくにの
こやのあしぶき
うづもれて
ゆきのひまだに
みえぬころかな
深き江に
流れもやらぬ
亂れ芦の
うき節乍ら
さてや朽なむ
ふかきえに
ながれもやらぬ
みだれあしの
うきふしながら
さてやくちなむ
白から
かよふばかりの
言の葉に
露の命を
かけてこそまて
おのづから
かよふばかりの
ことのはに
つゆのいのちを
かけてこそまて
いかゞせむ
うき水上の
泪川
あふせも志らで
沈みはてなば
いかがせむ
うきみなかみの
なみだかは
あふせもしらで
しずみはてなば
今はとて
己がきぬ〴〵
立別れ
鳥の音おくる
志のゝめの道
いまはとて
おのがきぬぎぬ
たちわかれ
とりのねおくる
しののめのみち
分馴れし
小野の淺茅生
霜枯れて
通ひし道の
いつ絶にけむ
わけなれし
をののあさぢう
しもかれて
かよひしみちの
いつたえにけむ
忘れむと
思ふ物から
慕ふこそ
つらさも知らぬ
心なりけれ
わすれむと
おもふものから
したふこそ
つらさもしらぬ
こころなりけれ
雲晴れて
のどけき空の
秋の月
おもひなきよの
光とぞ見る
くもはれて
のどけきそらの
あきのつき
おもひなきよの
ひかりとぞみる
降る雪と
いくへかうづむ
吉野山
見しは昔の
すゞの志た道
ふるゆきと
いくへかうづむ
よしのやま
みしはむかしの
すずのしたみち
鏡山
見てもものうき
霜雪の
かさなるまゝに
暮るゝ年かな
かがみやま
みてもものうき
しもゆきの
かさなるままに
くるるとしかな
頼みつゝ
暮せるよひも
ねられねば
老の昔に
逢ふ夢ぞなき
たのみつつ
くれせるよひも
ねられねば
おいのむかしに
あふゆめぞなき
積りゆく
我がよの程の
年月は
たゞ時のまの
うたゝねの夢
つもりゆく
わがよのほどの
としつきは
ただときのまの
うたたねのゆめ
我袖の
露も涙も
あまりある
あきのうれへは
月のみぞとふ
わがそでの
つゆもなみだも
あまりある
あきのうれへは
つきのみぞとふ
長き夜の
霜の枕は
ゆめ絶えて
嵐のまどに
こほるつきかげ
ながきよの
しものまくらは
ゆめたえて
あらしのまどに
こほるつきかげ
降りつもる
雪間に落つる
瀧川の
岩根に細き
みづのしら浪
ふりつもる
ゆきまにおつる
たきかはの
いはねにほそき
みづのしらなみ
人心
思ひ亂るゝ
かくなはの
とにも斯にも
むすぼゝれつゝ
ひとこころ
おもひみだるる
かくなはの
とにもかくにも
むすぼほれつつ
うきて立つ
雲吹き拂ふ
山風の
小笹に過ぐる
音のはげしさ
うきてたつ
くもふきはらふ
やまかぜの
をささにすぐる
おとのはげしさ
かき暮れし
秋の涙の
そのまゝに
猶そでしぼる
今日の春雨
かきくれし
あきのなみだの
そのままに
なほそでしぼる
けふのはるさめ
足引の
山は霞の
あさみどり
春とも志らず
冴ゆるそらかな
あしびきの
やまはかすみの
あさみどり
はるともしらず
さゆるそらかな
夕日影
さすや高嶺の
もみぢ葉は
空も千しほの
色ぞ移ろふ
ゆふひかげ
さすやたかねの
もみぢはは
そらもちしほの
いろぞうつろふ
深山木の
したはふ葛の
下紅葉
うらむる色を
知る人ぞなき
みやまぎの
したはふくずの
したもみぢ
うらむるいろを
しるひとぞなき
こととひし
みゆきの跡は
世々ふりて
殘る川邊の
松ぞ木高き
こととひし
みゆきのあとは
よよふりて
のこるかはべの
まつぞきたかき
年々の
花になれても
ふり果てぬ
さのみや後の
春を待つべき
としどしの
はなになれても
ふりはてぬ
さのみやのちの
はるをまつべき
深き江に
流れもやらぬ
亂芦の
うき節ながら
さてや朽なむ
ふかきえに
ながれもやらぬ
みだれあしの
うきふしながら
さてやくちなむ
つれなしな
逢ふ頼なき
年月を
かくてもすぐす
命ながさは
つれなしな
あふたのみなき
としつきを
かくてもすぐす
いのちながさは
なかめつゝ
なれにし春を
かそへても
ふりぬる身こそ
花につらけれ
なかめつつ
なれにしはるを
かそへても
ふりぬるみこそ
はなにつらけれ
時やいつ
空にしられぬ
月雪の
色をうつして
さける卯の花
ときやいつ
そらにしられぬ
つきゆきの
いろをうつして
さけるうのはな
逢事の
年にかはらぬ
七夕は
頼む一夜や
命なるらん
あふごとの
としにかはらぬ
たなばたは
たのむひとよや
いのちなるらん
秋風は
更にけらしな
里とをき
きぬたのをとの
すみまさりゆく
あきかぜは
ふけにけらしな
さととをき
きぬたのをとの
すみまさりゆく
滝川の
岩ねつゝきや
こほるらん
はや瀬の浪の
音のよはれる
たきかはの
いはねつつきや
こほるらん
はやせのなみの
おとのよはれる
我袖は
涙ありとも
つけなくに
まつしりかほに
やとる月哉
わがそでは
なみだありとも
つけなくに
まつしりかほに
やとるつきかな
わふとたに
誰かはしらん
跡もなき
雲の奥なる
山のすみかは
わふとたに
たれかはしらん
あともなき
くものおくなる
やまのすみかは
うたゝねの
みしかき夢の
程はかり
老の枕に
むかしをそ見る
うたたねの
みしかきゆめの
ほどはかり
おいのまくらに
むかしをそみる
うき身さへ
世にさすらへて
年もへぬ
住へき山の
おくはあれとも
うきみさへ
よにさすらへて
としもへぬ
すむへきやまの
おくはあれとも
ひとつにそ
世をまもるらし
跡たるゝ
よもの社の
神の心は
ひとつにそ
よをまもるらし
あとたるる
よものやしろの
かみのこころは