茂り行く
下に清水
は埋もれて
まづ手に結ぶ
野邊の夏ぐさ
しげりゆく
したにきよみづ
はうもれて
まづてにむすぶ
のべのなつぐさ
惜めども
さらぬならひの
命にて
うきは此世の
別なりけり
をしめども
さらぬならひの
いのちにて
うきはこのよの
わかれなりけり
かくて世に
惜しからぬ身ぞ
年經ぬる
憂や強面き
老となる覽
かくてよに
をしからぬみぞ
としへぬる
うきやつれなき
おいとなるらん
ぬれつゝも
いくかきぬらむ
旅衣
かさなる山の
五月雨の空
ぬれつつも
いくかきぬらむ
たびごろも
かさなるやまの
さみだれのそら
今はとて
見し面影の
更に尚
身に添ふ物と
なりにけるかな
いまはとて
みしおもかげの
さらになほ
みにそふものと
なりにけるかな
藤衣
なれしかた見を
ぬき捨て
あらぬ袂も
なみたなりけり
ふぢころも
なれしかたみを
ぬきすてて
あらぬたもとも
なみたなりけり
きけは猶
なきこそまされ
月影の
更るやむしの
うらみ成らん
きけはなほ
なきこそまされ
つきかげの
ふけるやむしの
うらみなるらん
都出し
日数は冬に
成にけり
しくれてさむき
白川の関
みやこいでし
ひかずはふゆに
なりにけり
しくれてさむき
しらかはのせき
袖ぬらす
記念なりけり
もしほ草
かきをく跡の
わかの浦波
そでぬらす
かたみなりけり
もしほくさ
かきをくあとの
わかのうらなみ
なく〳〵も
みし夜のかけや
思ひ出る
月の都の
秋のかりかね
なくなくも
みしよのかけや
おもひいづる
つきのみやこの
あきのかりかね
こしかたを
一夜のほとゝ
見る夢は
さめてそ遠き
むかしなりける
こしかたを
ひとよのほとと
みるゆめは
さめてそとほき
むかしなりける