積れたゞ
入りにし山の
峰の雪
うき世に歸る
道もなきまで
つもれただ
いりにしやまの
みねのゆき
うきよにかへる
みちもなきまで


思ひ遣る
苔の下だに
悲しきに
ふかくも雪の
なほ埋むかな
おもひやる
こけのしただに
かなしきに
ふかくもゆきの
なほうずむかな


移り行く
月日も知らぬ
山里は
花をかぎりに
春ぞ暮れぬる
うつりゆく
つきひもしらぬ
やまざとは
はなをかぎりに
はるぞくれぬる


萩の上の
露となりてや
雲居飛ぶ
雁の涙も
いろに出づらむ
はぎのうへの
つゆとなりてや
くもゐとぶ
かりのなみだも
いろにいづらむ


初瀬川
井手越す波の
其儘に
氷りてかゝる
瀬々のしがらみ
はつせかは
ゐでこすなみの
それままに
こほりてかかる
せぜのしがらみ


逢坂の
鳥の音とほく
なりにけり
あさ露分くる
粟津野の原
あふさかの
とりのおととほく
なりにけり
あさつゆわくる
あはづののはら


空蝉の
世のはかなさを
思ふには
猶あだならぬ
朝がほの花
うつせみの
よのはかなさを
おもふには
なほあだならぬ
あさがほのはな


こと浦に
なびかぬ程ぞ
夕けぶり
我が下燃えの
頼なりける
ことうらに
なびかぬほどぞ
ゆふけぶり
わがしたもえの
たのみなりける


更けぬるを
恨みむとだに
思ふ間に
來ぬ夜知らるゝ
鳥の聲哉
ふけぬるを
うらみむとだに
おもふまに
こぬよしらるる
とりのこゑかな


友ときく
松の嵐も
音せずば
なほやま里や
さびしからまし
ともときく
まつのあらしも
おとせずば
なほやまさとや
さびしからまし


限あれば
身の憂き事も
歎かれず
老をぞ人は
待つべかりける
かぎりあれば
みのうきことも
なげかれず
おいをぞひとは
まつべかりける


名のみして
山は朝日の
影も見ず
八十うぢ川の
五月雨の頃
なのみして
やまはあさひの
かげもみず
やそうぢかはの
さみだれのころ


里人は
衣うつなり
志がらきの
外山の秋や
夜さむなるらむ
さとひとは
ころもうつなり
しがらきの
とやまのあきや
よさむなるらむ


行く水の
淵瀬ならねど
飛鳥風
昨日にかはる
秋は來にけり
ゆくみづの
ふちせならねど
あすかかぜ
きのふにかはる
あきはきにけり


限とも
言はでは如何
戀死なむ
誰が惜むべき
うき身ならねど
かぎりとも
いはではいかが
こひしなむ
たがをしむべき
うきみならねど


蜑の住む
里の烟は
絶えにしを
つらき導べの
なに殘るらむ
あまのすむ
さとのけぶりは
たえにしを
つらきしるべの
なにのこるらむ


自づから
又身を隱す
人にだに
住むと知られぬ
山の奧かな
おのづから
またみをかくす
ひとにだに
すむとしられぬ
やまのおくかな


年も經ぬ
今一志ほと
思ひしも
こゝろに朽つる
墨染のそで
としもへぬ
いまひとしほと
おもひしも
こころにくつる
すみぞめのそで


變らじな
空しき空の
夕月夜
又ありあけに
うつり行くとも
かはらじな
むなしきそらの
ゆふつくよ
またありあけに
うつりゆくとも


山里は
とはれし庭も
跡たえて
ちりしく花に
春風そ吹
やまざとは
とはれしにはも
あとたえて
ちりしくはなに
はるかぜそふ


菅原や
伏見の暮の
面影に
いつくの山も
たつ霞かな
すがはらや
ふしみのくれの
おもかげに
いつくのやまも
たつかすみかな


白妙の
高ねの桜
さきしより
かすみもやらぬ
月の影哉
しろたへの
たかねのさくら
さきしより
かすみもやらぬ
つきのかげかな


さきぬやと
今こそとはめ
山桜
春はつれなく
みえし梢を
さきぬやと
いまこそとはめ
やまさくら
はるはつれなく
みえしこずゑを


五月雨に
みきはまさりて
広瀬川
名にこそたてれ
水の白浪
さみだれに
みきはまさりて
ひろせかは
なにこそたてれ
みづのしらなみ