もろこしも
天の下にぞ
ありと聞く
照る日の本を
忘れざらなむ
もろこしも
あめのしたにぞ
ありときく
てるひのもとを
わすれざらなむ
Слыхала я, что и земля,
Куда ты едешь, Морокоси
Стоит под небесами,
Но землю, где восходит солнце,
Не забывай!
* Дзёдзин-хоси — буддийский проповедник, сын придворного сановника Фудзивары Сукэмаса. Отправился в Китай (Сунскую империю) в 1072 г. Морокоси — старинное японское название Китая.
しのへとも
このわかれちを
おもふには
から紅の
涙こそふれ
しのへとも
このわかれちを
おもふには
からくれなゐの
なみたこそふれ


歎きつゝ
我身はなきに
なりはてぬ
今は此世を
忘にしかな
なげきつつ
わがみはなきに
なりはてぬ
いまはこのよを
わすれにしかな


唐土へ
行く人よりも
とゞまりて
からき思は
我れぞ勝れる
もろこしへ
ゆくひとよりも
とどまりて
からきおもは
われぞまされる


なくなくも
あはれなるかな
枝々に
木伝ふ春の
鶯の声
なくなくも
あはれなるかな
えだえだに
こづたふはるの
うぐひすのこゑ


雲の上ぞ
のどけかるべき
万代に
千世かさねます
ももしきの君
くものうへぞ
のどけかるべき
よろづよに
ちよかさねます
ももしきのきみ


忍べども
この別れ路を
思ふには
唐紅の
涙こそふれ
しのべども
このわかれぢを
おもふには
からくれなゐの
なみだこそふれ


しばしぞと
待つ人もなき
命には
この世の仮の
別れ路ぞ憂き
しばしぞと
まつひともなき
いのちには
このよのかりの
わかれぢぞうき


道芝に
捨て置かれぬる
露の身は
蓮の上も
いかがとぞ思ふ
みちしばに
すておかれぬる
つゆのみは
はちすのうへも
いかがとぞおもふ


敷島を
漕ぎ離るとも
行末に
来まほしくなる
心付けなむ
しきしまを
こぎはなるとも
ゆくすゑに
きまほしくなる
こころつけなむ


唐土も
天の下にぞ
ありと聞く
この日の本は
忘れざらなむ
もろこしも
あめのしたにぞ
ありときく
このひのもとは
わすれざらなむ


かの岸に
ほどなくこそは
行きて来め
心にかなふ
のりの筏は
かのきしに
ほどなくこそは
ゆきてこめ
こころにかなふ
のりのいかだは


車ぞと
こしらふれども
火の家に
惑ふ心は
やまずぞありける
くるまぞと
こしらふれども
ひのいへに
まどふこころは
やまずぞありける


歎きつつ
日をめぐりてや
過ぐしてむ
出づるも入るも
深山辺の里
なげきつつ
ひをめぐりてや
すぐしてむ
いづるもいるも
みやまべのさと


惜しみわび
音のみ泣かるる
別れ路は
涙もえこそ
とどめざりけれ
をしみわび
ねのみなかるる
わかれぢは
なみだもえこそ
とどめざりけれ


別れ路を
慕ふ心は
もろともに
いきてやわれも
あらんとすらん
わかれぢを
したふこころは
もろともに
いきてやわれも
あらんとすらん


行く方の
近きあふみの
海ならば
恋ひしき影は
そこに見てまし
ゆくかたの
ちかきあふみの
うみならば
こひしきかげは
そこにみてまし


船出する
淀の御神も
浅からぬ
心をくみて
守りやらなむ
ふなでする
よどのみかみも
あさからぬ
こころをくみて
まもりやらなむ


しひて行く
船路を惜しむ
別れ路に
涙もえこそ
留めざりけれ
しひてゆく
ふねぢををしむ
わかれぢに
なみだもえこそ
とどめざりけれ


音に聞く
生の松原
名にし負はば
行きかふ人も
万代ぞ経む
おとにきく
いきのまつはら
なにしおはば
ゆきかふひとも
よろづよぞへむ


思ひやる
心を知らば
竃門山
はるけき道も
照りぞ渡らむ
おもひやる
こころをしらば
かまどやま
はるけきみちも
てりぞわたらむ


葦間行く
船もさはらず
漕ぎてぬと
聞けば難波の
恨めしきかな
あしまゆく
ふねもさはらず
こぎてぬと
きけばなにはの
うらめしきかな


かの岸を
思ひやりてぞ
青□
□□この
かたをながむる
かのきしを
おもひやりてぞ
あを□
□□この
かたをながむる

この行数文字欠文。底本、「本ニ心えずとあり本ママ」とある。
その方に
漕ぎ行く船の
われならば
かれはこじまと
なぐさめてまし
そのかたに
こぎゆくふねの
われならば
かれはこじまと
なぐさめてまし


かりにても
見るめなきさの
つらけれは
しほりわひぬる
あまのそてかな
かりにても
みるめなきさの
つらけれは
しほりわひぬる
あまのそてかな


川と聞く
涙に浮ぶ
悲しさに
下り立つ身をば
せきぞかねつる
かはときく
なみだにうかぶ
かなしさに
くだりたつみをば
せきぞかねつる


悲しみの
涙の川に
浮ぶかな
流れ会はばや
法の海にて
かなしみの
なみだのかはに
うかぶかな
ながれ会はばや
のりのうみにて


別れ路の
心や空に
通ふらむ
人まつ風の
絶えず吹くかな
わかれぢの
こころやそらに
かよふらむ
ひとまつかぜの
たえずふくかな


もろともに
尋ね見よかし
いれ置きし
仏の路は
変らじものを
もろともに
たづねみよかし
いれおきし
ほとけのみちは
かはらじものを


うらみては
あしと言ふなる
難波潟
涙ぞ袖は
包みわびぬる
うらみては
あしといふなる
なにはかた
なみだぞそでは
つつみわびぬる


思ひやる
心の内の
悲しさを
あはれいかにと
言はぬ日ぞなき
おもひやる
こころのうちの
かなしさを
あはれいかにと
いはぬひぞなき


きぬべしと
たのめしかども
唐衣
立ち返るまで
経べきわが身か
きぬべしと
たのめしかども
からころも
たちかへるまで
ふべきわがみか


別れ路を
歎く心に
まつ風の
吹き驚かす
音ぞ聞こゆる
わかれぢを
なげくこころに
まつかぜの
ふきおどろかす
おとぞきこゆる


うらみわび
涙絶えせぬ
藻塩
草かき集めて
も塩垂れぞ増す
うらみわび
なみだたえせぬ
もしほぐさ
かきあつめても
しほたれぞます


涙川
なくなくなりて
絶えぬとも
ながれけりとは
跡に来て見よ
なみだかは
なくなくなりて
たえぬとも
ながれけりとは
あとにきてみよ


はるばると
人はいくとも
われはなき
別れなりせば
歎かましやは
はるばると
ひとはいくとも
われはなき
わかれなりせば
なげかましやは


わが袖に
かかる涙を
とどめおきて
船はのどかに
漕ぎや行くらむ
わがそでに
かかるなみだを
とどめおきて
ふねはのどかに
こぎやゆくらむ


あひ見むと
思ふ心は
深けれど
われや泣く泣く
待たずなりなむ
あひみむと
おもふこころは
ふかけれど
われやなくなく
またずなりなむ


山桜
思ひこそやれ
このもとに
散り散りになる
春は憂けれど
やまさくら
おもひこそやれ
このもとに
ちりちりになる
はるはうけれど


奥山に
すみおきたりし
かひもなく
まつの煙の
跡ぞ絶えたる
おくやまに
すみおきたりし
かひもなく
まつのけぶりの
あとぞたえたる


行き返り
かりこま山を
まつほどに
ははその森は
散りや果てなむ
ゆきかへり
かりこまやまを
まつほどに
ははそのもりは
ちりやはてなむ


敷島や
山はたのみも
あるものを
露降り捨つる
小笹原かな
しきしまや
やまはたのみも
あるものを
つゆふりすつる
をささはらかな


うらみわび
海士も涙に
沈むかな
いづら浮木の
枝に会ふべき
うらみわび
あまもなみだに
しずむかな
いづらうきこの
えだにあふべき


海人小舟
のり取る方も
忘られぬ
みるめなぎさの
うらみするまに
あまをぶね
のりとるかたも
わすられぬ
みるめなぎさの
うらみするまに


阿弥陀仏の
絶え間苦しき
海人はただ
いを安くこそ
寝られざりけれ
あみだぶの
たえまくるしき
あまはただ
いをやすくこそ
ねられざりけれ


朝日待つ
露につけても
忘られず
契りおきてし
言の葉なれば
あさひまつ
つゆにつけても
わすられず
ちぎりおきてし
ことのはなれば


歎きつつ
はかなう過ぐる
日数かな
これや羊の
歩みなるらむ
なげきつつ
はかなうすぐる
ひかずかな
これやひつじの
あゆみなるらむ


袖のうら
に涙の珠は
走りつつ
あらはなれども
知る人もなし
そでのうら
になみだの珠は
はしりつつ
あらはなれども
しるひともなし


しひ止むる
この世にまたも
あひ見ずは
たまかけるとも
誰かつぐべき
しひとむる
このよにまたも
あひみずは
たまかけるとも
たれかつぐべき


阿弥陀仏と
思ひて行けば
凉しくて
すみ渡るなる
そこよりぞ
九品にて
蓮葉を
生ひのほかなる
上葉こそ
露のわが身を
置きてむと
思ふ心し
深ければ
この世につらき
ことも歎かぬ
あみだぶと
おもひてゆけば
すずしくて
すみわたるなる
そこよりぞ
ここのしなにて
はちすはを
おひのほかなる
うはばこそ
つゆのわがみを
おきてむと
おもふこころし
ふかければ
このよにつらき
こともなげかぬ

生ひのほかなる=冷泉家本「生ひのぼるなる」らしい
消え返り
露の命は
長らへで
涙のたまぞ
留めわびぬる
きえかへり
つゆのいのちは
ながらへで
なみだのたまぞ
とどめわびぬる


歎きつつ
わが身はなきに
なり果てぬ
今はこの世を
忘れにしがな
なげきつつ
わがみはなきに
なりはてぬ
いまはこのよを
わすれにしがな


世の憂きを
つらきも知らで
やみねかし
あるにもあらず
なりぬとならば
よのうきを
つらきもしらで
やみねかし
あるにもあらず
なりぬとならば


わが魂は
行方も知らず
なりにけり
われか人かと
たどらるるまで
わがたまは
ゆくへもしらず
なりにけり
われかひとかと
たどらるるまで


歎くにも
言ふにもかひ
のなき身に
は出で入る息の
絶ゆるをぞ待つ
なげくにも
ことふにもかひ
のなきみに
はいでいる息の
たゆるをぞまつ


呼子鳥
身にそふ影に
聞こえねど
なぞやなぞやと
言はれこそすれ
よぶこどり
みにそふかげに
きこえねど
なぞやなぞやと
いはれこそすれ


恋ひわたる
夕暮れ方の
面影を
たそがれ時と
言ふにやあるらん
こひわたる
ゆふくれかたの
おもかげを
たそがれときと
いふにやあるらん


別れ路の
はかなく過ぐる
日数かな
いづくにすべき
涙ならぬに
わかれぢの
はかなくすぐる
ひかずかな
いづくにすべき
なみだならぬに


うらさびず
ふみ来むものと
聞きしかど
いづら千鳥の
跡の見えける
うらさびず
ふみこむものと
ききしかど
いづらちとりの
あとのみえける


言ふかたも
なぎさにこそは
海人小舟
釣りのうけ縄
たゆたひてふる
いふかたも
なぎさにこそは
あまをぶね
つりのうけなは
たゆたひてふる


今はよも
あたの下には
あり経じと
思ひなるにも
降る涙かな
いまはよも
あたのしたには
ありへじと
おもひなるにも
ふるなみだかな


わが身だに
この世になくば
唐土の
別れなりとも
歎かましやは
わがみだに
このよになくば
もろこしの
わかれなりとも
なげかましやは


別れ路に
この世の憂きは
見えぬるを
今は仏の
路ぞゆかしき
わかれぢに
このよのうきは
みえぬるを
いまはほとけの
みちぞゆかしき


日にそへて
仏の路を
たづねつつ
暮れゆくをこそ
しひかにはすれ
ひにそへて
ほとけのみちを
たづねつつ
くれゆくをこそ
しひかにはすれ


から国の
別れを歎く
かたにても
心づくしの
ありけるぞ憂き
からくにの
わかれをなげく
かたにても
こころづくしの
ありけるぞうき


唐土へ
行く人よりも
とどまりて
からき思ひは
われぞまされる
もろこしへ
ゆくひとよりも
とどまりて
からきおもひは
われぞまされる


かき積みて
やくと見れども
藻塩草
思ひわびつつ
消え返るかな
かきつみて
やくとみれども
もしほぐさ
おもひわびつつ
きえかへるかな


かくばかり
憂かりける身を
ささがにの
いかで今まで
長らへつらむ
かくばかり
うかりけるみを
ささがにの
いかでいままで
ながらへつらむ


誰をとも
分かず鳴くらむ
まつ虫の
わが身のさがの
音にぞ通ふる
たれをとも
わかずなくらむ
まつむしの
わがみのさがの
ねにぞかよふる


草枕
涙の露の
かかるをや
みねききつら
なくきりぎりす
くさまくら
なみだのつゆの
かかるをや
みねききつらなく
なくきりぎりす

底本「なく」に「本ニ本」と傍書
夜もすがら
涙の珠の
かかればや
草枕とは
人の言ふらむ
よもすがら
なみだの珠の
かかればや
くさまくらとは
ひとのいふらむ


歎きわび
絶えむ命は
口惜しく
つゆ言ひ置かむ
言の葉もなし
なげきわび
たえむいのちは
くちをしく
つゆいひおかむ
ことのはもなし


よどみなく
涙の川は
ながるれど
思ひぞ胸を
やくとこがるる
よどみなく
なみだのかはは
ながるれど
おもひぞむねを
やくとこがるる


遥かにと
たち別れにし
唐衣
きて見るまでは
経べきわが身か
はるかにと
たちわかれにし
からころも
きてみるまでは
ふべきわがみか


言ふかひも
なみだの川に
沈みたる
みをも誰かは
深くたづねん
いふかひも
なみだのかはに
しずみたる
みをもたれかは
ふかくたづねん


秋深き
唐撫子は
かれぬとも
さがのこととて
歎きしもせじ
あきふかき
からなでしこは
かれぬとも
さがのこととて
なげきしもせじ


かぎりなき
神代の君が
別れだに
跡のあはれは
悲しかりけり
かぎりなき
かみよのきみが
わかれだに
あとのあはれは
かなしかりけり


火の家を
こしらへ出でて
とらせてし
このくるまをも
今は待つかな
ひのいへを
こしらへいでて
とらせてし
このくるまをも
いまはまつかな


かけてける
衣の裏の
珠ぞとも
立ち帰らずは
誰か告ぐべき
かけてける
ころものうらの
たまぞとも
たちかへらずは
たれかつぐべき


わたの原
漕ぎ離れたる
秋よとや
四方の浦風
身にぞしみける
わたのはら
こぎはなれたる
あきよとや
よものうらかぜ
みにぞしみける


思ひ出づる
まことの道の
たかはずは
蓮の上を
いかが見ざらむ
おもひいづる
まことのみちの
たかはずは
はちすのうへを
いかがみざらむ


すみ給ふ
仏の池の
清ければ
あみだにこそは
罪すくふらめ
すみたまふ
ほとけのいけの
きよければ
あみだにこそは
つみすくふらめ


円かなる
月の光を
ながめても
入る山の端の
奥ぞゆかしき
円かなる
つきのひかりを
ながめても
いるやまのはの
おくぞゆかしき


花散りし
春の別れの
悲しさの
涙や秋の
時雨なるらむ
はなちりし
はるのわかれの
かなしさの
なみだやあきの
しぐれなるらむ


うつらふは
唐錦とや
きくの花
よそふるしもぞ
消え返りぬる
うつらふは
からにしきとや
きくのはな
よそふるしもぞ
きえかへりぬる


あらましき
雨の音にも
はるかなる
このもといかが
時雨降るらん
あらましき
あめのおとにも
はるかなる
このもといかが
しぐれふるらん


つらかりし
春の別れに
今までも
あるにもあらで
霰ふるかな
つらかりし
はるのわかれに
いままでも
あるにもあらで
あられふるかな


祈りても
影みたらしと
言ふべきに
頼むかたなき
神無月かな
いのりても
かげみたらしと
いふべきに
たのむかたなき
かみなづきかな


この岸
を漕ぎ離れぬ
る船なれば
うらみやるべき
かたも知られず
このきしを
こぎはなれぬる
ふねなれば
うらみやるべき
かたもしられず


つらかりし
去年の歎きに
いとどしく
このめはるかに
なると聞くかな
つらかりし
こぞのなげきに
いとどしく
このめはるかに
なるときくかな


わがためは
拝む入り日も
雲隠れ
長き闇こそ
思ひやらるれ
わがためは
おがむいりひも
くもかくれ
ながきやみこそ
おもひやらるれ


散りにける
花の折り見ぬ
その憂きに
いとどこずゑの
はるかなるかな
ちりにける
はなのをりみぬ
そのうきに
いとどこずゑの
はるかなるかな


塵払ふ
家のあるじも
わかことや
惑ひたる子は
ゆかしかりけむ
ちりはらふ
いへのあるじも
わかことや
まどひたるねは
ゆかしかりけむ


一つあめの
下にぬれども
いかなれば
うるはぬ草の
みとなりにけん
ひとつあめの
したにぬれども
いかなれば
うるはぬくさの
みとなりにけん


酔ひさめて
のちにあはずは
いかでかは
衣の裏の
珠を知るべき
ゑひさめて
のちにあはずは
いかでかは
ころものうらの
たまをしるべき


君にこそ
二つの珠は
まかせしか
五つの障り
とどめてきとて
きみにこそ
ふたつのたまは
まかせしか
いつつのさはり
とどめてきとて


愚かなる
心とともと
聞きしかど
こははるかにぞ
いく薬なる
おろかなる
こころとともと
ききしかど
こははるかにぞ
いくくすりなる


行く人
は嬉しき船と
思ふとも
とまれるかたの
うらめしきかな
ゆくひとは
うれしきふねと
おもふとも
とまれるかたの
うらめしきかな


明け暮れば
普き門を
頼みつつ
出でにし人の
入るをこそ待て
あけくれば
あまねきかどを
たのみつつ
いでにしひとの
いるをこそまて


量りなく
重きを渡す
船の師は
またこの岸を
頼みてぞ待つ
はかりなく
おもきをわたす
ふねのしは
またこのきしを
たのみてぞまつ


日にそへて
そらおもいとと
たのむかな
ないたのつゆの
みをもきやせと
ひにそへて
そらおもいとと
たのむかな
ないたのつゆの
みをもきやせと


すぐれたる
蓮の上を
願ふかな
会ふはかりなき
君を頼みて
すぐれたる
はちすのうへを
ねがふかな
会ふはかりなき
きみをたのみて


浅からず
思ひそめたる
いろいろの
蓮の上を
いかが見ざらむ
あさからず
おもひそめたる
いろいろの
はちすのうへを
いかがみざらむ


山の端に
出で入る月も
めぐりては
心の内に
すむとこそ聞け
やまのはに
いでいるつきも
めぐりては
こころのうちに
すむとこそきけ


出で入ると
人目ばかりに
見ゆれども
こしの山には
のどかなりとか
いでいると
ひとめばかりに
みゆれども
こしのやまには
のどかなりとか


浦風の
身にしむあまの
釣舟か
わたの原にぞ
島がくれゐる
うらかぜの
みにしむあまの
つりぶねか
わたのはらにぞ
しまがくれゐる


立ち返り
なほ春になる
歎きをば
身をうぐひすの
同じ枝に鳴く
たちかへり
なほはるになる
なげきをば
みをうぐひすの
おなじえになく


こずゑにも
安き空なき
身なりけり
つたなきことも
今は歎かじ
こずゑにも
やすきそらなき
みなりけり
つたなきことも
いまはなげかじ


うらめしく
漕ぎ離れぬる
うき舟を
のりの筏と
頼みけるかな
うらめしく
こぎはなれぬる
うきふねを
のりのいかだと
たのみけるかな


思ひやる
かたこそなけれ
あま小舟
のり捨てらるる
うらみする世に
おもひやる
かたこそなけれ
あまをぶね
のりすてらるる
うらみするよに


答へせば
入江の芹に
問ひてまし
昔の人は
いかが摘みしと
こたへせば
いりえのあしに
とひてまし
むかしのひとは
いかがつみしと


いつかとも
知らぬこひぢの
菖蒲草
うきねあらはす
今日にこそありけれ
いつかとも
しらぬこひぢの
あやめくさ
うきねあらはす
けふにこそありけれ


何ごとを
昔の人は
思ひてか
泣くに命を
絶ゆと言ひけむ
なにごとを
むかしのひとは
おもひてか
なくにいのちを
たゆといひけむ


あだなれど
歎くわが身は
会ふことの
かたきにこそは
なりはてぬらめ
あだなれど
なげくわがみは
会ふことの
かたきにこそは
なりはてぬらめ


会ふことを
いつかと待ちし
菖蒲草
うきためしにや
人に引かれむ
会ふことを
いつかとまちし
あやめくさ
うきためしにや
ひとにひかれむ


疑ひの
変らぬ道と
聞きつるを
われしもことに
何か歎かむ
うたがひの
かはらぬみちと
ききつるを
われしもことに
なにかなげかむ


すくれたる
蓮の上を
願ふ身は
人より先に
急がるるかな
すくれたる
はちすのうへを
ねがふみは
ひとよりさきに
いそがるるかな


この世にて
見えずなりなば
夢の内の
惑ひも覚めぬ
身とやなりなん
このよにて
みえずなりなば
ゆめのうちの
まどひもさめぬ
みとやなりなん


敷島を
厭ふたぐひを
ありと言はば
人に問ひても
慰めてまし
しきしまを
いとふたぐひを
ありといはば
ひとにとひても
なぐさめてまし


薬採る
昔の人に
あらずとも
この敷島を
めぐり会はばや
くすりとる
むかしのひとに
あらずとも
このしきしまを
めぐり会はばや

徐福を指す
この池に
並ぶ蓮の
露ならば
さ言はんことも
嬉しからまし
このいけに
ならぶはちすの
つゆならば
さいはんことも
うれしからまし


会ふことを
蓮の上と
契れども
この世はなほぞ
忘れざりける
あふことを
はちすのうへと
ちぎれども
このよはなほぞ
わすれざりける


やまとなる
わが歎きのみ
茂りつつ
からき思ひぞ
やるかたもなき
やまとなる
わがなげきのみ
しげりつつ
からきおもひぞ
やるかたもなき


東路の
別れなりせば
わが恋を
富士の煙に
よそへてましを
あづまぢの
わかれなりせば
わがこひを
ふじのけぶりに
よそへてましを


一人のみ
思ひ焦がるる
わが恋は
心づくしの
竃山かな
ひとりのみ
おもひこがるる
わがこひは
こころづくしの
かまどやまかな


うらやまし
同じ雲居の
ほどといへど
ゆきめぐりたる
冬は来にけり
うらやまし
おなじくもゐの
ほどといへど
ゆきめぐりたる
ふゆはきにけり


心より
涙は出づる
ものなれや
思へば袖に
まづぞかかれる
こころより
なみだはいづる
ものなれや
おもへばそでに
まづぞかかれる


かき暗し
わが身それとも
思はねど
そらに心を
知りにけるかな
かきくらし
わがみそれとも
おもはねど
そらにこころを
しりにけるかな


はるかにも
ゆきまがふぞと
思ひせは
消えかへれとは
ことづけてまし
はるかにも
ゆきまがふぞと
おもひせは
きえかへれとは
ことづけてまし


その方と
慕ふ入り日を
立ち隠す
世にうき雲の
いとはしきかな
そのかたと
したふいりひを
たちかくす
よにうきくもの
いとはしきかな


尽きもせ
ず落つる涙
はからくに
のとわたる船に
おりはへもせじ
つきもせず
おつるなみだは
からくにの
とわたるふねに
おりはへもせじ


からくにの
別れなりとも
わが身だに
ここに歎かば
誰か歎かむ
からくにの
わかれなりとも
わがみだに
ここになげかば
たれかなげかむ


ともすれば
涙にくもる
行く末の
暗き道こそ
思ひやらるれ
ともすれば
なみだにくもる
ゆくすゑの
くらきみちこそ
おもひやらるれ


花よりも
身にはたとへむ
方ぞなき
うつらむ春に
会はむとすやは
はなよりも
みにはたとへむ
かたぞなき
うつらむはるに
会はむとすやは


秋はつる
雁の声とは
聞きながら
春の雲居の
あはれなるかな
あきはつる
かりのこゑとは
ききながら
はるのくもゐの
あはれなるかな


うらやまし
同じ雲居の
ほどと言へど
いつとも知らぬ
秋を待つかな
うらやまし
おなじくもゐの
ほどといへど
いつともしらぬ
あきをまつかな


かりにても
今日ばかりこそ
うらやまめ
明日を待つべき
命ならねば
かりにても
けふばかりこそ
うらやまめ
あすをまつべき
いのちならねば


袖はひぢ
涙の池に
目はなりて
影見まほしき
音をのみそ泣く
そではひぢ
なみだのいけに
めはなりて
かげみまほしき
ねをのみそなく


拝まねど
花盛りなる
山寺に
つつじ見てきと
人に語らむ
おがまねど
はなさかりなる
やまてらに
つつじみてきと
ひとにかたらむ


思ふこと
なくて暮らしし
春の日は
雨のつれづれ
知られやはせじ
おもふこと
なくてくらしし
はるのひは
あめのつれづれ
しられやはせじ


我一人
憂き世の歎く
ことはりを
涙ならでは
知る人もなし
われひとり
うきよのなげく
ことはりを
なみだならでは
しるひともなし


拝むとも
まつに入り日の
暮れぬめり
なほいとはしき
あめの下かな
おがむとも
まつにいりひの
くれぬめり
なほいとはしき
あめのしたかな


ながめつつ
身のうき雲の
かかる世に
長らへんとは
思はざりしを
ながめつつ
みのうきくもの
かかるよに
ながらへんとは
おもはざりしを


いかなれば
夢とぞ思ふ
心にも
身にもまかせぬ
命なるらむ
いかなれば
ゆめとぞおもふ
こころにも
みにもまかせぬ
いのちなるらむ


西へ行く
月だに誘へ
人知れず
思ふ心は
そらに知るらむ
にしへゆく
つきだにさそへ
ひとしれず
おもふこころは
そらにしるらむ


明けくれば
雲居の方へ
ながめやる
空目はいつか
絶えむとすらむ
あけくれば
くもゐのかたへ
ながめやる
そらめはいつか
たえむとすらむ


奉る
ものならませば
かくばかり
長き命を
身にて見ましや
たてまつる
ものならませば
かくばかり
ながきいのちを
みにてみましや


口惜しき
身にも替ふべき
ものならば
今まで世をは
聞きて経ましや
くちをしき
みにも替ふべき
ものならば
いままでよをは
ききてへましや


山賤の
垣根の上と
聞きしかど
世をうの花は
今ぞ咲きける
やまがつの
かきねのうへと
ききしかど
よをうのはなは
いまぞさきける


ことづけむ
人もなけれは
み山なる
葉守の神を
思ひこそやれ
ことづけむ
ひともなけれは
みやまなる
はもりのかみを
おもひこそやれ


そむきにし
わが身なれとも
神代よと
あふひといふぞ
耳とどめつる
そむきにし
わがみなれとも
かみよよと
あふひといふぞ
みみとどめつる


そこにとも
知らぬこひぢの
菖蒲草
いつかあふちの
花をこそ待て
そこにとも
しらぬこひぢの
あやめくさ
いつかあふちの
はなをこそまて


雲間なき
空をながむる
五月雨
の袖の雫
も雨に劣らぬ
くもまなき
そらをながむる
さみだれの
そでのしずくも
あめにおとらぬ


かはとだに
言はぬなりけり
早くより
みなれ渡りて
そぼちしかども
かはとだに
いはぬなりけり
はやくより
みなれわたりて
そぼちしかども


うらうらに
みるめばかりは
見しかども
石見潟こそ
かひなかりけれ
うらうらに
みるめばかりは
みしかども
いしみかたこそ
かひなかりけれ


石見潟
塩のやくとは
うらみねど
あまりありやと
問ふ人ぞなき
いしみかた
しほのやくとは
うらみねど
あまりありやと
とふひとぞなき


名にし負へば
色かへでこそ
頼まるれ
こてふに似たる
花も咲きけり
なにしおへば
いろかへでこそ
たのまるれ
こてふににたる
はなもさきけり


はかりなき
国を過ぎたる
極楽も
心の内は
絶えぬとぞ聞く
はかりなき
くにをすぎたる
ごくらくも
こころのうちは
たえぬとぞきく


うたた寝の
ほども忘れず
極楽を
夢にも見むと
思ふ心も
うたたねの
ほどもわすれず
ごくらくを
ゆめにもみむと
おもふこころも


おぼつかな
ふみ見てしがな
極楽に
降るらむ花の
跡と思ひて
おぼつかな
ふみみてしがな
ごくらくに
ふるらむはなの
あととおもひて


極楽の
蓮の上を
待つほどに
つゆのわが身ぞ
置き所なき
ごくらくの
はちすのうへを
まつほどに
つゆのわがみぞ
おきところなき


鷲の山
のどかに照らす
月こそは
まことの道の
しるべとは聞け
わしのやま
のどかにてらす
つきこそは
まことのみちの
しるべとはきけ


朝日待つ
露の罪なく
消え果てば
夕べの月は
誘はざらめや
あさひまつ
つゆのつみなく
きえはてば
ゆふべのつきは
さそはざらめや