吹くとなき
風に柳は
なびき立ちて
遠近かすむ
夕ぐれの春
ふくとなき
かぜにやなぎは
なびきたちて
をちこちかすむ
ゆふぐれのはる


春日影
世は長閑にて
それとなく
囀りかはす
鳥のこゑ〴〵
はるひかげ
よはのどかにて
それとなく
さへづりかはす
とりのこゑごゑ


櫻散る
山した水を
せき分けて
花に流るゝ
小田のなはしろ
さくらちる
やましたみづを
せきわけて
はなにながるる
をだのなはしろ


薄霧の
やまもと遠く
鹿鳴きて
夕日かげろふ
岡のべのまつ
うすきりの
やまもととほく
しかなきて
ゆふひかげろふ
をかのべのまつ


吹き志をる
千種の花は
庭に臥して
風にみだるゝ
初雁の聲
ふきしをる
ちたねのはなは
にはにふして
かぜにみだるる
はつかりのこゑ


風に落つ
る草葉の露
も隱なく
まがきに清き
いりがたの月
かぜにおつ
るくさばのつゆ
もかくなく
まがきにきよき
いりがたのつき


山あらしに
浮き行く雲の
一通り
日影さながら
時雨降る也
やまあらしに
うきゆくくもの
ひとかより
ひかげさながら
しぐれふるなり


吹くとだに
知られぬ風は
身にしみて
影さへ通る
霜の上の月
ふくとだに
しられぬかぜは
みにしみて
かげさへかよる
しものうへのつき


薄曇
折り〳〵さむく
散る雪に
いづるともなき
月も凄まじ



思ひけつ
限こそ有れ
憂き身ぞと
忍ふが上も
餘るつらさを
おもひけつ
かぎりこそあれ
うきみぞと
しのふがうへも
あまるつらさを


我と人
哀れ心の
かはるとて
などかはつらき
何かこひしき
われとひと
あはれこころの
かはるとて
などかはつらき
なにかこひしき


思ふ程は
かゝじと思ふ
玉章に
猶ともすれば
進むことのは
おもふほどは
かかじとおもふ
たまづさに
なほともすれば
すすむことのは


すべて此の
泪の隙や
いつならむ
哀は哀れ
憂きは憂しとて
すべてこの
なみだのひまや
いつならむ
あはれはあはれ
うきはうしとて


是やさば
變るなる覽
其節と
見えぬ物から
有りしにも似ぬ
これやさば
かはるなるらん
それふしと
みえぬものから
ありしにもにぬ


變るてふ
人よげにこそ
變りけれ
昨日見ざりし
今日のつらさは
かはるてふ
ひとよげにこそ
かはりけれ
きのふみざりし
けふのつらさは


思ひとる
唯此のまゝの
つらさにて
又は哀に
歸らずもがな
おもひとる
ただこのままの
つらさにて
またはあはれに
かへらずもがな


憂きもよし
報なる覽と
思へ共
見えぬ世々には
慰まばこそ
うきもよし
むくひなるらんと
おもへとも
みえぬよよには
なぐさまばこそ


更けにけり
また轉寢に
見る月の
影も簾に
とほくなりゆく
ふけにけり
またうたたねに
みるつきの
かげもすだれに
とほくなりゆく


空清く
有明の月は
かげすみて
木高き杉に
ましらなくなり
そらきよく
ありあけのつきは
かげすみて
きたかきすぎに
ましらなくなり


つく〴〵と
獨聞く夜の
雨の音は
降りをやむさへ
寂しかり鳬
つくづくと
ひとりきくよの
あめのおとは
ふりをやむさへ
さびしかりけり


皆人の
いをぬるなべに
鳥羽玉の
夜てふ時ぞ
世は靜かなる
みなひとの
いをぬるなべに
うばたまの
よるてふときぞ
よはしづかなる


山松は
見る〳〵雲に
消え果てゝ
寂しさのみの
夕ぐれの雨
やままつは
みるみるくもに
きえはてて
さびしさのみの
ゆふぐれのあめ


とはるやと
待たましいかに
寂しからむ
人目を厭ふ
奥山の庵
とはるやと
またましいかに
さびしからむ
ひとめをいとふ
おくやまのいほ


思ふ事
ならばいつまで
住まむとて
唯目の前の
世を歎く覽
おもふこと
ならばいつまで
すまむとて
ただめのまへの
よをなげくらん


物毎に
心をとめば
何にかは
うき世の中の
知られざるべき
ものごとに
こころをとめば
なににかは
うきよのなかの
しられざるべき


覺めて後
悔しき物は
又もこぬ
昔を見つる
夢にぞ有りける
さめてのち
くやしきものは
またもこぬ
むかしをみつる
ゆめにぞありける