宿ごとの
夕ぐれとはむ
秋といへば
我にかぎらず
物や思ふと
やどごとの
ゆふぐれとはむ
あきといへば
われにかぎらず
ものやおもふと


櫻色の
衣はうへに
かふれども
心にはるを
わすれぬものを
さくらいろの
ころもはうへに
かふれども
こころにはるを
わすれぬものを


もみぢ葉の
深山に深く
散敷くは
秋の歸りし
道にやある覽
もみぢはの
みやまにふかく
ちしくはあ
きのかへりしみ
ちにやあるらん


神南備の
山下風の
寒けくに
ちりかひ曇る
四方のもみぢ葉
かむなびの
やましたかぜの
さむけくに
ちりかひくもる
よものもみぢは


いかにせむ
世に僞の
有るまゝに
我がかね言を
人の頼まぬ
いかにせむ
よにいつはりの
あるままに
わがかねことを
ひとのたのまぬ


浦の松
木の間に見えて
沈む日の
名殘の波ぞ
暫しうつろふ
うらのまつ
このまにみえて
しずむひの
なごりのなみぞ
しばしうつろふ


今日と言へば
別れし人の
名殘より
あやめもつらき
物をこそおもへ
けふといへば
わかれしひとの
なごりより
あやめもつらき
ものをこそおもへ


志賀の山
風をさまれる
春に逢ひて
君が御幸を
花も待けり
しがのやま
かぜをさまれる
はるにあひて
きみがみゆきを
はなもまちけり


悔しくぞ
移ろふ花を
手折りつる
綾なく袖の
雪と降りけり
くやしくぞ
うつろふはなを
てをりつる
あやなくそでの
ゆきとふりけり


山陰や
田子の小笠を
吹く風も
すゞしき暮に
早苗取るなり
やまかげや
たごのをかさを
ふくかぜも
すずしきくれに
さなへとるなり


月の行く
波の柵
かけとめよ
あまの河原の
みじか夜のそら
つきのゆく
なみのしがらみ
かけとめよ
あまのかはらの
みじかよのそら


浦遠く
渡る千鳥も
聲さむし
志もの白洲の
ありあけのそら
うらとほく
わたるちとりも
こゑさむし
しものしらすの
ありあけのそら


志賀の浦や
氷くだけて
秋風の
吹きしく浪に
うかぶ月かげ
しがのうらや
こほりくだけて
あきかぜの
ふきしくなみに
うかぶつきかげ


我が身世に
なからむ後に
哀れとは
誰れか岩間の
水莖の跡
わがみよに
なからむのちに
あはれとは
たれかいはまの
みづぐきのあと


鳴きぬべき
頃と思へば
時鳥
寐覺にまたぬ
あかつきぞなき
なきぬべき
ころとおもへば
ほととぎす
ねざめにまたぬ
あかつきぞなき


更科や
姨捨山も
さもあらばあれ
唯我がやどの
雲の上の月
さらしなや
おばすてやまも
さもあらばあれ
ただわがやどの
くものうへのつき


嵐吹く
楢のひろ葉の
冬枯に
たまらぬ玉は
あられなりけり
あらしふく
ならのひろはの
ふゆかれに
たまらぬたまは
あられなりけり


織女の
ちぎり待つ間の
涙より
露はゆふべの
物とやは置く
たなはたの
ちぎりまつまの
なみだより
つゆはゆふべの
ものとやはおく


いとゞ猶
歎かむ爲か
逢ふと見て
人無きとこの
夢の名殘は
いとどなほ
なげかむためか
あふとみて
ひとなきとこの
ゆめのなごりは


忘らるゝ
身をこそ月に
喞ちつれ
人をうらみぬ
心よわさに
わすらるる
みをこそつきに
かこちつれ
ひとをうらみぬ
こころよわさに


我が身世に
なからむ後は
哀とも
誰か岩間の
水莖の跡
わがみよに
なからむのちは
あはれとも
たれかいはまの
みづぐきのあと


高砂の
尾上に立てる
松が枝の
色にや經べき
君が千とせは
たかさごの
おのえにたてる
まつがえの
いろにやふべき
きみがちとせは


山ふかき
谷のうくひす
出にけり
都の人に
春やつくらん
やまふかき
たにのうくひす
いでにけり
みやこのひとに
はるやつくらん


いつはとは
影はわかねと
夜はの月
かすめは春の
物にそ有ける
いつはとは
かげはわかねと
よはのつき
かすめははるの
ものにそあける


郭公
そのかみ山の
そのかみも
かはかり待し
人は有きや
ほととぎす
そのかみやまの
そのかみも
かはかりまし
ひとはあきや


心あらは
河浪たつな
天の河
船出まつまの
あきの夕風
こころあらは
かはなみたつな
あまのかは
ふなでまつまの
あきのゆふかぜ


しら露の
をかへのすゝき
はつ尾花
ほのかになひく
時はきにけり
しらつゆの
をかへのすすき
はつをはな
ほのかになひく
ときはきにけり


郭公
誰につけてか
つれなしと
いはせの杜の
村雨の空
ほととぎす
たれにつけてか
つれなしと
いはせのもりの
むらさめのそら


長閑なる
夕への山は
みとりにて
霞になひく
青柳の糸
のどかなる
ゆふへのやまは
みとりにて
かすみになひく
あをやぎのいと


花ならし
かすみて匂ふ
白雲の
春はたちそふ
みよし野の山
はなならし
かすみてにほふ
しらくもの
はるはたちそふ
みよしののやま


秋風の
さむき朝けに
きにけらし
雲に聞ゆる
初雁のこゑ
あきかぜの
さむきあさけに
きにけらし
くもにきこゆる
はつかりのこゑ


秋風は
尾上の松に
をとつれて
夕の山を
いつる月かけ
あきかぜは
おのえのまつに
をとつれて
ゆふべのやまを
いつるつきかけ


更ぬれと
ゆくともみえぬ
月影の
さすかに松の
西になりぬる
ふけぬれと
ゆくともみえぬ
つきかげの
さすかにまつの
にしになりぬる


今よりは
衣うつなり
秋風の
さむき夕の
岡のへのさと
いまよりは
ころもうつなり
あきかぜの
さむきゆふべの
をかのへのさと


恋しさの
ねてや忘るゝと
思へとも
またなこりそふ
夢の面影
こひしさの
ねてやわするると
おもへとも
またなこりそふ
ゆめのおもかげ


かたみとて
かへすも世ゝの
家の風
吹つたへよと
思ふとをしれ
かたみとて
かへすもよよの
いへのかぜ
ふきつたへよと
おもふとをしれ