我が宿を
訪ふとはなしに
春の來て
庭に跡ある
雪のむら消
わがやどを
とふとはなしに
はるのきて
にはにあとある
ゆきのむらぎえ
幾度か
斯く住み捨てゝ
出でつらむ
定めなき世に
結ぶ假庵
いくたびか
かくすみすてて
いでつらむ
さだめなきよに
むすぶかりいほ
故里と
定むる方の
無き時は
いづくに行くも
家路なりけり
ゆゑさとと
さだむるかたの
なきときは
いづくにゆくも
いへぢなりけり
出づるとも
入るとも月を
思はねば
心にかゝる
山の端もなし
いづるとも
いるともつきを
おもはねば
こころにかかる
やまのはもなし
樣々に
説けども説かぬ
言の葉を
聞かずして聞く
人ぞ少き
さまざまに
とけどもとかぬ
ことのはを
きかずしてきく
ひとぞすくなき
七十ぢの
後の春まで
ながらへて
心に待たぬ
花を見るかな
ななそぢの
のちのはるまで
ながらへて
こころにまたぬ
はなをみるかな
とふ人の
情の深き
ほどまでは
つもりもやらぬ
庭の志ら雪
とふひとの
なさけのふかき
ほどまでは
つもりもやらぬ
にはのしらゆき
世を捨てゝ
後は詠めぬ
物ならば
月に心や
志ばしとゞめむ
よをすてて
のちはながめぬ
ものならば
つきにこころや
しばしとどめむ
忘れては
世を捨て顏に
思ふ哉
遁れずとても
數ならぬ身を
わすれては
よをすてかほに
おもふかな
のがれずとても
かずならぬみを
雲よりも
高き所に
出でゝ見よ
志ばしも月に
隔てやは有る
くもよりも
たかきところに
いでてみよ
しばしもつきに
へだてやはある