春きても
川風さむし
みかの原
たつや霞の
衣かせやま
はるきても
かはかぜさむし
みかのはら
たつやかすみの
ころもかせやま
故鄉の
八本の櫻
思ひ出よ
わがみし春は
むかしなりとも
ふるさとの
やもとのさくら
おもひいでよ
わがみしはるは
むかしなりとも
月のこる
嶺の梢は
明やらで
風にわかるゝ
花のよこぐも
つきのこる
みねのこずゑは
あけやらで
かぜにわかるる
はなのよこぐも
嵐吹
梢は春も
なくなりて
をのれ花さく
杜の下くさ
あらしふく
こずゑははるも
なくなりて
をのれはなさく
もりのしたくさ
ほのかなる
闇のうつゝの
一こゑは
夢にまさらぬ
時鳥かな
ほのかなる
やみのうつつの
ひとこゑは
ゆめにまさらぬ
ほととぎすかな
茂りあふ
櫻が下の
夕すゞみ
春はうかりし
風ぞまたるゝ
しげりあふ
さくらがしたの
ゆふすずみ
はるはうかりし
かぜぞまたるる
暁の
ね覺の床に
露ぞをく
枕も今や
秋をしるらむ
あかつきの
ねさめのとこに
つゆぞをく
まくらもいまや
あきをしるらむ
待出る
月は夜さむの
あり明に
いひしばかりと
うつ衣かな
まちいづる
つきはよさむの
ありあかりに
いひしばかりと
うつころもかな
荻の葉の
便もつらき
嵐かな
軒端の木ずゑ
色かはる比
をぎのはの
たよりもつらき
あらしかな
のきはのこずゑ
いろかはるころ
かひなしな
人をわたさぬ
法の舟
うき世の岸を
漕はなれても
かひなしな
ひとをわたさぬ
のりのふね
うきよのきしを
こぎはなれても
歎つゝ
ひとりやさねん
あしべ行
鴨の羽がひも
霜さゆる夜に
なげきつつ
ひとりやさねん
あしべゆく
かものはがひも
しもさゆるよに
おもひ入
心ひとつに
まよふかな
野にも山にも
あらぬ戀路を
おもひいり
こころひとつに
まよふかな
のにもやまにも
あらぬこひぢを
せめてたゞ
命のほどの
戀路にて
後の世迄は
まよはずもがな
せめてただ
いのちのほどの
こひぢにて
のちのよまでは
まよはずもがな
こぬ人の
おも影ながら
更ぬなり
我やゆかむの
いざよひの月
こぬひとの
おもかげながら
ふけぬなり
われやゆかむの
いざよひのつき
思出て
心に忍ぶ
面影や
人のゝこさぬ
かた見なるらん
おもいでて
こころにしのぶ
おもかげや
ひとののこさぬ
かたみなるらん
うかりける
身のならはしの
夕かな
入會の鐘に
もの忘せで
うかりける
みのならはしの
ゆふべかな
いりあひのかねに
ものわすれせで
うきをしる
心のなにと
ありそめて
つらきたびには
袖ぬらすらん
うきをしる
こころのなにと
ありそめて
つらきたびには
そでぬらすらん
わくらはに
くる夜を
なにと歎けん
たえけるものを
さゝがにの糸
わくらはに
くるよをなにと
なげきけん
たえけるものを
ささがにのいと
忘めや
かりほのさゝの
ふしどころ
さてだにありし
夜はの契を
わすらめや
かりほのささの
ふしどころ
さてだにありし
よはのちぎりを
思出よ
野中のし水
そのまゝに
又かげも見ぬ
契なりとも
おもいでよ
のなかのしみづ
そのままに
またかげもみぬ
ちぎりなりとも
思きや
ふでの林の
花の香を
わが袖にさへ
うつすべしとは
おもひきや
ふでのはやしの
はなのかを
わがそでにさへ
うつすべしとは
代々の跡と
思ばかりに
あつめきて
我も年ふる
窓の白雪
よよのあとと
おもふばかりに
あつめきて
われもとしふる
まどのしらゆき
いそがれぬ
五十の坂も
こえにけり
老はなこその
關守も哉
いそがれぬ
いそぢのさかも
こえにけり
おいはなこその
せきもりもかな
親のおやの
ためしをみつる
我身かな
君の君なる
世につかふとて
おやのおやの
ためしをみつる
わがみかな
きみのきみなる
よにつかふとて
哀にぞ
なき俤も
かよひける
親のいさめし
うたゝねの夢
あはれにぞ
なきおもかげも
かよひける
おやのいさめし
うたたねのゆめ
三とせまで
ほさぬ泪の
ふぢ衣
こは又いかに
そむる袂ぞ
みとせまで
ほさぬなみだの
ふぢころも
こはまたいかに
そむるたもとぞ
よそへつゝ
みればしほるゝ
わが袖に
かけじやさらに
撫子の露
よそへつつ
みればしほるる
わがそでに
かけじやさらに
なでしこのつゆ