野べとをみ
春の心ぞ
つながれぬ
うかべる雲の
跡をみるにも
のべとをみ
はるのこころぞ
つながれぬ
うかべるくもの
あとをみるにも


いかにせん
さらでもかすむ
月影の
老の泪の
袖にくもらば
いかにせん
さらでもかすむ
つきかげの
おいのなみだの
そでにくもらば


よしの山
雲井の櫻
君が代に
あふべき春や
契をきけん
よしのやま
くもゐのさくら
きみがよに
あふべきはるや
ちぎりをきけん


いかにして
老の心を
なぐさめむ
たえて櫻の
さかぬ世ならば
いかにして
おいのこころを
なぐさめむ
たえてさくらの
さかぬよならば


まださかぬ
梢あればと
たのまずば
うつろふ花や
猶うからまし
まださかぬ
こずゑあればと
たのまずば
うつろふはなや
なほうからまし


うたゝねの
夢にはきゝつ
時鳥
おもひあはする
一聲も哉
うたたねの
ゆめにはききつ
ほととぎす
おもひあはする
ひとこゑもかな


誰かはと
思ふ物から
故郷の
たよりまたるゝ
はつ鴈のこゑ
たれかはと
おもふものから
ふるさとの
たよりまたるる
はつかりのこゑ


待もうし
山のあなたの
里人と
成てぞ月は
みるべかりける
まちもうし
やまのあなたの
さとひとと
なりてぞつきは
みるべかりける


かくてなど
すまざりけると
山ざとの
月みる秋の
心にぞとふ
かくてなど
すまざりけると
やまざとの
つきみるあきの
こころにぞとふ


いほりさす
宿はみ山の
影なれば
さむく日ごとに
ふる時雨哉
いほりさす
やどはみやまの
かげなれば
さむくひごとに
ふるしぐれかな


まきもくの
山にや雪の
積るらん
あなしのひばら
風しほるなり
まきもくの
やまにやゆきの
つもるらん
あなしのひばら
かぜしほるなり


歎きつゝ
くれ行年を
世にふれば
猶いそぐとや
人のみるらん
なげきつつ
くれゆくとしを
よにふれば
なほいそぐとや
ひとのみるらん


いく里の
月に心を
つくすらん
都の秋を
見ずなりしより
いくさとの
つきにこころを
つくすらん
みやこのあきを
みずなりしより


石淸水
きよき流を
たのむより
にごらじとこそ
思初しか
いはしみづ
きよきながれを
たのむより
にごらじとこそ
おもひそめしか


昔みし
平野にたてる
あや杉の
すぎにけりとて
われな忘そ
むかしみし
ひらのにたてる
あやすぎの
すぎにけりとて
われなわすれそ


八百日行
濱の眞砂の
數しらず
さとれる人も
ありける物を
やほひゆく
はまのまさごの
かずしらず
さとれるひとも
ありけるものを


なをざりの
ことの葉ならば
いかゞせん
命にかけて
賴む契を
なをざりの
ことのはならば
いかがせん
いのちにかけて
たのむちぎりを


そのまゝに
たえなばいとゞ
うかるべき
一夜の夢を
人にかたるな
そのままに
たえなばいとど
うかるべき
ひとよのゆめを
ひとにかたるな


鶯の
鳴て出つる
谷かげに
猶時しらで
のこる山人
うぐひすの
なきていでつる
たにかげに
なほときしらで
のこるやまひと


咲そむる
花にしらせじ
世中の
人の心の
うつりやすさを
さきそむる
はなにしらせじ
よのなかの
ひとのこころの
うつりやすさを


を山田の
苗代水の
ひき〳〵に
人の心の
にごる世ぞうき
をやまだの
なはしろみづの
ひきひきに
ひとのこころの
にごるよぞうき


おとこ山
昔のみゆき
思ふにも
かざしゝ花の
春ぞ忘れぬ
おとこやま
むかしのみゆき
おもふにも
かざししはなの
はるぞわすれぬ


忘ずば
いざかたらはむ
時鳥
雲井になれし
代々のむかしを
わすれずば
いざかたらはむ
ほととぎす
くもゐになれし
よよのむかしを


山深く
結ぶ庵りも
荒ぬべし
身のうきよりは
世み歎くまに
やまふかく
むすぶいほりも
あれぬべし
みのうきよりは
よみなげくまに


いかにせん
春のみ山の
昔より
雲井までみし
世のこひしさを
いかにせん
はるのみやまの
むかしより
くもゐまでみし
よのこひしさを


なげゝとて
老の身をこそ
殘しけめ
あるはかず〴〵
あらずなる世に
なげけとて
おいのみをこそ
のこしけめ
あるはかずがず
あらずなるよに