足引の
山の白雪
けぬが上に
春てふ今日は
かすみたなびく
あしびきの
やまのしらゆき
けぬがうへに
はるてふけふは
かすみたなびく


沈み果つる
入日のきはに
あらはれぬ
霞める山の
猶奧の峯
しずみはつる
いりひのきはに
あらはれぬ
かすめるやまの
なほおくのみね


鶯の
聲も長閑に
鳴きなして
かすむ日影は
暮れむともせず
うぐひすの
こゑものどかに
なきなして
かすむひかげは
くれむともせず


梅が香は
枕に充ちて
鶯の
こゑより明くる
まどのしのゝめ
うめがかは
まくらにみちて
うぐひすの
こゑよりあくる
まどのしののめ


春の色を
催ほす雨の
降るなべに
枯野の草も
下めぐむなり
はるのいろを
もよほすあめの
ふるなべに
かれののくさも
しためぐむなり


さびしさは
花よいつかの
詠めして
霞にくるゝ
春雨のそら
さびしさは
はなよいつかの
ながめして
かすみにくるる
はるさめのそら


打ち渡す
宇治の渡りの
夜深きに
川音澄みて
月ぞかすめる
うちわたす
うぢのわたりの
よふかきに
かはおとすみて
つきぞかすめる


宿からや
春の心も
急ぐらむ
外にまだ見ぬ
はつざくらかな
やどからや
はるのこころも
いそぐらむ
ほかにまだみぬ
はつざくらかな


一志きり
吹亂しつる風
はやみて
誘はぬ花も
長閑にぞちる
ひとしきり
ふきみだしつる
かぜはやみて
さそはぬはなも
のどかにぞちる


春の名殘
ながむる浦の
夕なぎに
漕ぎ別れ行く
船も恨めし
はるのなごり
ながむるうらの
ゆふなぎに
こぎわかれゆく
ふねもうらめし


夏淺き
みどりの木立
庭遠み
雨降りしむる
日ぐらしのやど
なつあさき
みどりのきだち
にはとほみ
あめふりしむる
ひぐらしのやど


折りはへて
いまこゝになく
時鳥
きよく凉しき
聲の色かな
をりはへて
いまここになく
ほととぎす
きよくすずしき
こゑのいろかな


時鳥
人のまどろむ
程とてや
忍ぶるころは
ふけてこそなけ
ほととぎす
ひとのまどろむ
ほどとてや
しのぶるころは
ふけてこそなけ


松を拂ふ
風は裾野の
草に落ちて
ゆふだつ雲に
雨きほふ也
まつをはらふ
かぜはすそのの
くさにおちて
ゆふだつくもに
あめきほふなり


哀れさも
その色となき
夕暮の
尾花が末に
あきぞうかべる
あはれさも
そのいろとなき
ゆふぐれの
をはながすゑに
あきぞうかべる


吹き捨てゝ
過ぎぬる風の
名殘まで
音せぬ荻も
秋ぞ悲しき
ふきすてて
すぎぬるかぜの
なごりまで
おとせぬをぎも
あきぞかなしき


秋風に
浮雲たかく
空澄みて
夕日になびく
きしのあをやぎ
あきかぜに
うきくもたかく
そらすみて
ゆふひになびく
きしのあをやぎ


夕日移る
柳の末の
秋風に
そなたのかりの
こゑもさびしき
ゆふひうつる
やなぎのすゑの
あきかぜに
そなたのかりの
こゑもさびしき


庭のむしは
鳴きとまりぬる
雨の夜の
かべに音する
蛬かな
にはのむしは
なきとまりぬる
あめのよの
かべにおとする
きりきりすかな


月の色も
秋にそめなす
風の夜の
哀うけとる
まつの音かな
つきのいろも
あきにそめなす
かぜのよの
あはれうけとる
まつのおとかな


野分だつ
夕の雲の
あしはやみ
時雨に似たる
あきのむら雨
のわきだつ
ゆふべのくもの
あしはやみ
しぐれににたる
あきのむらさめ


朝嵐の
峯よりおろす
大井川
うきたる霧も
ながれてぞゆく
あさあらしの
みねよりおろす
おほゐかは
うきたるきりも
ながれてぞゆく


吹き冴ゆる
嵐のつての
二聲に
又はきこえぬ
あかつきの鐘
ふきさゆる
あらしのつての
ふたこゑに
またはきこえぬ
あかつきのかね


降り晴るゝ
庭の霰は
片よりて
色なる雲ぞ
そらに暮れ行く
ふりはるる
にはのあられは
かたよりて
いろなるくもぞ
そらにくれゆく


行く先は
雪の吹雪に
閉ぢ籠めて
雲に分け入る
志賀の山越
ゆくさきは
ゆきのふゆきに
とぢこめて
くもにわけいる
しがのやまごし


山おろしの
梢の雪を
吹くたびに
一くもりする
松の下かげ
やまおろしの
こずゑのゆきを
ふくたびに
ひとくもりする
まつのしたかげ


暮るゝまで
屡拂ふ
竹の葉に
かぜはよわりて
雪ぞ降り敷く



谷ごしに
草取る鷹を
目にかけて
行く程おそき
しばの下道
たにごしに
くさとるたかを
めにかけて
ゆくほどおそき
しばのしたみち


めにかけて
暮れぬと急ぐ
山もとの
松の夕日の
色ぞ少なき
めにかけて
くれぬといそぐ
やまもとの
まつのゆふひの
いろぞすくなき


高瀬山
松の下道
分け行けば
ゆふ嵐吹きて
逢ふひともなし
たかせやま
まつのしたみち
わけゆけば
ゆふあらしふきて
あふひともなし


故郷に
契りし人も
寐覺せば
我が旅寐をも
おもひやるらむ
ふるさとに
ちぎりしひとも
ねざめせば
わがたびねをも
おもひやるらむ


はつ時雨
思ひそめても
徒らに
槇の下葉の
いろぞつれなき
はつしぐれ
おもひそめても
いたづらに
まきのしたばの
いろぞつれなき


頼まねば
待たぬになして
見る夜半の
更行く儘に
などか悲しき
たのまねば
またぬになして
みるよはの
ふけゆくままに
などかかなしき


夜がれそむ
る寢待の月の
つらさより
廿日の影も
又や隔てむ
よがれそむ
るねまのつきの
つらさより
はつかのかげも
またやへだてむ


思ひ鳬
と頼成りての
後しもぞ
はかなき事も
人よりは憂き
おもひけり
とたのなりての
のちしもぞ
はかなきことも
ひとよりはうき


物思ふ
心の色に
染められて
目に見る雲も
ひとやこひしき
ものおもふ
こころのいろに
そめられて
めにみるくもも
ひとやこひしき


見るからに
戀しさをのみ
催して
人のさそはぬ
月も恨めし
みるからに
こひしさをのみ
もよほして
ひとのさそはぬ
つきもうらめし


暮れぬとて
詠めすつへき
名殘かは
霞める末の
春の山の端
くれぬとて
ながめすつへき
なごりかは
かすめるすゑの
はるのやまのは


時わかぬ
君が春とや
たち花の
影もさくらに
猶うつるらむ
ときわかぬ
きみがはるとや
たちはなの
かげもさくらに
なほうつるらむ


めづらしき
緑の袖も
雲のうへの
花に色添ふ
はるの一しほ
めづらしき
みどりのそでも
くものうへの
はなにいろそふ
はるのひとしほ


もりうつる
谷にひとすぢ
日影見えて
峯も麓も
松の夕かぜ
もりうつる
たににひとすぢ
ひかげみえて
みねもふもとも
まつのゆふかぜ


大空に
あまねくおほふ
雲の心
國土うるほふ
雨くだすなり



物として
量り難しな
よわき水に
重き舟しも
浮ぶと思へば
ものとして
はかりかたしな
よわきみづに
おもきふねしも
うかぶとおもへば


大井川
遙に見ゆる
橋のうへに
行く人すごし
雨のゆふぐれ
おほゐかは
はるかにみゆる
はしのうへに
ゆくひとすごし
あめのゆふぐれ


岡のべや
靡かぬ松は
聲をなして
下草しをる
山おろしの風
をかのべや
なびかぬまつは
こゑをなして
したくさしをる
やまおろしのかぜ
Не гнётся сосна,
Стоящая рядом с холмом,
Но подаёт голос
Из-за горного ветра,
Что и траву под нею морозит
Перевод: Павел Белов
見るとなき
心にも猶
あたりけむ
向ふみぎりの
松の一もと
みるとなき
こころにもなほ
あたりけむ
むかふみぎりの
まつのひともと


かた〴〵に
惜むべき世を
思捨てゝ
誠の道に
入るぞかしこき
かた〴〵に
をしむべきよを
おもすてて
まことのみちに
いるぞかしこき


導べする
雪の深山の
けふに逢ひて
舊き哀の
色を添へぬる
しるべする
ゆきのみやまの
けふにあひて
ふるきあはれの
いろをそへぬる


あふぎても
頼みぞなるゝ
古への
風を殘せる
すみ吉のまつ
あふぎても
たのみぞなるる
いにしへの
かぜをのこせる
すみよしのまつ


立ち歸り
又きさらぎの
空さえて
天ぎる雪に
かすむ山の端
たちかへり
またきさらぎの
そらさえて
あめぎるゆきに
かすむやまのは


荒れ果てし
志賀の故郷
來て見れば
春こそ花の
都なりけれ
あれはてし
しがのふるさと
きてみれば
はるこそはなの
みやこなりけれ


なる神の
音ほのかなる
夕立の
くもる方より
風ぞはげしき
なるかみの
おとほのかなる
ゆふだちの
くもるかたより
かぜぞはげしき


夢路まで
夜はの時雨の
慕ひ來て
さむる枕に
音まさるなり
ゆめぢまで
よはのしぐれの
しのひきて
さむるまくらに
おとまさるなり


故郷を
忘れむとても
いかゞせむ
旅寐の秋の
夜半の松かぜ
ふるさとを
わすれむとても
いかがせむ
たびねのあきの
よはのまつかぜ


海士の刈る
みるめはよその
契にて
汐干も知らぬ
袖の浦浪
あまのかる
みるめはよその
ちぎりにて
しおほしもしらぬ
そでのうらなみ


かひなしや
憂きになしても
一方に
思ひもこりぬ
心弱さは
かひなしや
うきになしても
ひとかたに
おもひもこりぬ
こころよはさは


庭の面は
跡見えぬまで
埋れぬ
風よりつもる
花のしらゆき
にはのおもは
あとみえぬまで
うづもれぬ
かぜよりつもる
はなのしらゆき


蓬生の
露のみ深き
古さとに
もと見しよりも
月ぞすみける
よもぎふの
つゆのみふかき
ふるさとに
もとみしよりも
つきぞすみける


秋深き
紅葉の幣の
唐にしき
けふも手向の
やまぞ志ぐるゝ
あきふかき
もみぢのぬさの
からにしき
けふもたむけの
やまぞしぐるる


この里は
志ぐれて寒き
冬の夜の
明くる高嶺に
降れる白雪
このさとは
しぐれてさむき
ふゆのよの
あくるたかねに
ふれるしらゆき


蜑のかる
磯の玉藻の
下亂れ
知らせ初むべき
波の間もがな
あまのかる
いそのたまもの
したみだれ
しらせそむべき
なみのまもがな


逢ふまでの
契もよしや
今は唯
憂きにまけぬる
命ともがな
あふまでの
ちぎりもよしや
いまはただ
うきにまけぬる
いのちともがな


さりともと
心ひとつに
頼めども
言ひし儘なる
夕暮も無し
さりともと
こころひとつに
たのめども
いひしままなる
ゆふぐれもなし