十一月十四日の夜、雪いとおもしろく、みちたえてつもりにけり。



夜番にて、花山院宰相中將もろつぐ師繼・頭中將など候ひけるも、院の御所へ參りにければ、人々清凉殿へたちいでゝみれば、竹にさえたるかぜのおとまでも身にしみておもしろきに、月はなほ雪げにくもりたりしも、中々見所あり。



大宮大納言きんすけ・萬里小路大納言きんもとなどまゐらせたまひて南殿にてよもすがらながめ給ひけるが、曉がたことにさえたりければ、うへのをのこども、殿上のをりまつめしけれども、つきたるよし申ければ、ひろ御所のきたむきにて、かれたる萩の枝など、をり松にせられけるときゝし、いとやさしくて、辨内侍、



霜がれの
ふるえの萩の
をり松は
もえ出る春の
爲とこそみれ
しもがれの
ふるえのはぎの
をりまつは
もえいづるはるの
ためとこそみれ


有明の月くまなかりしに、雪のひかりさえとほりて、おもしろくみえ侍りしかば、常の御所のかうらんのもとへたちいでたりしに、公忠の中將・大宮の大納言殿の、すゞりこはせ給ふとて、もちてまゐりしも、いづくの御文ならむとゆかしくて、辨内侍、



明けやらで
まだ夜は深き
雪のうちに
ふみゝる道は
跡やなか覽
あけやらで
まだよはふかき
ゆきのうちに
ふみゝるみちは
あとやなからん


十四日のよ、少將内侍女く所へわたりゐて、心ちなほわびしくて侍りければ、なにごともしらずふしたるに、曉がた、はるかに雪ふかきをわけいるくつのおとのきこゆるにおどろきて、こゝちをためらひて、やをらおきあがりてきけば、「大宮大納言殿より。」といふこゑにつきて、つまどををしあけたれば、いまだ夜はあけぬものから、雪にしらみたるうちのゝけいき、いつのよにもわすれがたくおもしろしといへばなべてなり。



御ふみをあけてみれば、



こゝのへの
うちのゝ雪に
跡つけて
遥に千代の
道をみるかな
ここのへの
うちののゆきに
あとつけて
はるかにちよの
みちをみるかな


その雪のあした、少將内侍のもとより、



九重に
ちよをかさねて
みゆるかな
大内山の
今朝のしらゆき
ここのへに
ちよをかさねて
みゆるかな
おほうちやまの
けさのしらゆき


返し、辨内侍、



道しあらん
ちよのみゆきを
思ふには
降る共のべの
跡はみえなん
みちしあらん
ちよのみゆきを
おもふには
ふるとものべの
あとはみえなん