また、この男、人ともの言ふに、返り事はするものから、会はでほど経ければ、男。
また、この男、人ともの言ふに、返り事はするものから、会はでほど経ければ、男。


われのみや
燃えて帰らむ
世とともに
思ひもならぬ
富士の嶺のこと
われのみや
もえてかへらむ
よとともに
おもひもならぬ
ふじのねのこと

* 底本「思ひおもひも」。衍字とみて削除。
女、返し。
女、返し。


富士の嶺の
ならぬ思ひも
燃えば燃え
かたみに消たぬ
むなし煙を
ふじのねの
ならぬおもひも
もえばもえ
かたみにけたぬ
むなしけぶりを

* 底本「かたみに」
また、男、返し。
また、男、返し。


神よりも
君は消たなん
誰により
生々し身の
燃ゆる思ひぞ
かみよりも
きみはけたなん
たれにより
なまなましみの
もゆるおもひぞ


また、女、返し。
また、女、返し。


かれぬ身を
燃ゆと聞くとも
いかがせむ
消ちこそ知らね
水ならぬ身は
かれぬみを
もゆときくとも
いかがせむ
けちこそしらね
みづならぬみは


かう歌も詠み、をかしかりけれど、まめやかに、「にげなし」と言ひければ、言ひやみにけり。
かう歌も詠み、をかしかりけれど、まめやかに、「にげなし」と言ひければ、言ひやみにけり。