また、この男、親、近江なる人に、いと忍びて住みけり。
また、この男、親、近江なる人に、いと忍びて住みけり。


さる間に、この女の親、気色をや見けん、口説ち、まもり、いさかひて、日も少し暮るれば、門差してうかがひければ、女は思ひさはり、男、会ふよしもなくて、からうじて築地を越えて、この男、入りにけり。
さる間に、この女の親、気色をや見けん、口説くぜち、まもり、いさかひて、日も少し暮るれば、かど差してうかがひければ、女は思ひさはり、男、会ふよしもなくて、からうじて築地ついひぢを越えて、この男、入りにけり。


常にもの言ひ伝へさする人に、たまさかに会ひにけり。
常にもの言ひ伝へさする人に、たまさかに会ひにけり。


さて、それして、「築地を越えてなむ参り来つる」と言はせけるを、親、気色見て、いみじく騒ぎののしりければ、
さて、それして、「築地を越えてなむ参り来つる」と言はせけるを、親、気色見て、いみじく騒ぎののしりければ、


「さらに対面すべくもあらず。はや帰りね」とぞ言ひ出だしたりければ、
「さらに対面たいめんすべくもあらず。はや帰りね」とぞ言ひ出だしたりければ、


「行く先はともかくもあれ、つゆにても『あはれ』と思はるるものならば、今宵帰りね」と、せちに言ひ出だしたりける。
「行く先はともかくもあれ、つゆにても『あはれ』と思はるるものならば、今宵帰りね」と、せちに言ひ出だしたりける。


「帰る」とて、男、
「帰る」とて、男、


みるめなみ
立ちやかへらむ
あふみぢは
名のみ海なる
浦と恨みて
みるめなみ
たちやかへらむ
あふみぢは
なのみうみなる
うらとうらみて


とて帰りぬ。
とて帰りぬ。


また、女、返し。
また、女、返し。


関山の
嵐の風の
寒ければ
君にあふみは
波のみぞ立つ
せきやまの
あらしのかぜの
さむければ
きみにあふみは
なみのみぞたつ
Не ветер ли холоден
Бури, что бушует
На горе Сэки,
В Оми лишь волны встают
И нет встреч с тобою.
Примерный перевод

さりけれど、この男、いらへをだにせずなりにけり。
さりけれど、この男、いらへをだにせずなりにけり。


何の身の高きにもあらず、親、かく憎げに言ふ。
何の身の高きにもあらず、親、かく憎げに言ふ。


めざまし。
めざまし。


女も親につつみければ、さてやみぬ。
女も親につつみければ、さてやみぬ。