平中物語
- 第26段
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また、男、忍びて知れる人ありけり。
また、男、忍びて知れる人ありけり。
人しげき所なれば、夜も明けぬ先に、「人の静まれる折に」とて、帰り出でたるに、まだ暗きほどなれば、「いかで帰らむ」と思へど、いとかたかりければ、門の前に渡したる橋の上に立ちて、言ひ入る。
人しげき所なれば、夜も明けぬ先に、「人の静まれる折に」とて、帰り出でたるに、まだ暗きほどなれば、「いかで帰らむ」と思へど、いとかたかりければ、
門
かど
の前に渡したる橋の上に立ちて、言ひ入る。
夜半に出でて
渡りぞかぬる
涙川
淵とながれて
深く見ゆれば
よはにいでて
わたりぞかぬる
なみだがは
ふちとながれて
ふかくみゆれば
танка
Намидагава
と言ひ入れたれば、女も寝でぞ起きたりける。
と言ひ入れたれば、女も
寝
ね
でぞ起きたりける。
返し。
返し。
小夜中に
遅れてわぶる
涙こそ
君が渡りの
淵となるらめ
さよなかに
おくれてわぶる
なみだこそ
きみがわたりの
ふちとなるらめ
танка
каэси-ута
слёзы
男、「いとあはれ」と思ひて、
男、「いとあはれ」と思ひて、
「また、もの言ひ入れむ」と思へど、
「また、もの言ひ入れむ」と思へど、
大路に人などありければ、たてらで*帰りにけり。
大路に人などありければ、たてらで*帰りにけり。
* 影印「ら」字見えず。