また、この男、「仏に花奉らむ」とて、山寺に詣でけり。
また、この男、「仏に花奉らむ」とて、山寺に詣でけり。


住む隣に、をかしきたはぶれこと言ひかはす人、かれもこれも、門より出で合ひて、男がり、女、「いづちぞ」と言ひおこせたりければ、「紅葉濃き山へなむ」とて、
住む隣に、をかしきたはぶれこと言ひかはす人、かれもこれも、かどより出で合ひて、男がり、女、「いづちぞ」と言ひおこせたりければ、「紅葉もみぢ濃き山へなむ」とて、


散るをまた
こきや散らさむ
袖広げ
拾ひや止めむ
山の紅葉を
ちるをまた
こきやちらさむ
そでひろげ
ひろひやとめん
やまのもみぢを


「いかがはせむ。のたまはむに従はむ」と言へば、女、
「いかがはせむ。のたまはむに従はむ」と言へば、女、


わが袖と
付くべきものと
一つ手に
山の紅葉よ
余りこそせめ
わがそでと
つくべきものと
ひとつてに
やまのももぢよ
あまりこそせめ

* 底本「人つてに」
となむ。
となむ。


返し勝りなりける。
返し勝りなりける。