また、この男、言ひみ言はずみもの言ひすさぶる人ありけり。
また、この男、言ひみ言はずみもの言ひすさぶる人ありけり。


さのみ、ものはかなくて、ありわたる。
さのみ、ものはかなくて、ありわたる。


おのづから年月経にけり。
おのづから年月経にけり。


男、音せねば、女のもとより、霜月*の一日の日、言ひたる。
男、おとせねば、女のもとより、霜月*の一日ついたちの日、言ひたる。

* 底本「しもつき」だが、内容上不適切。「むつき(睦月)」または「ふつき(文月)」の誤写という説がある。
「年は幾年にかなりぬる」と言ひたるに、あやしがりて、数へければ、三年といふ一日の日にぞありける。
「年は幾年いくとせにかなりぬる」と言ひたるに、あやしがりて、数へければ、三年みとせといふ一日の日にぞありける。


古の
言の譬ひの
あらたまの
年の三年に
今日こそはなれ
いにしへの
ことのたとひの
あらたまの
としのみとせに
けふこそはなれ


返し。
返し。


旧りにける
年の三年を
改めて
わが世のことと
三千年を待て
ふりにける
としのみとせを
あらためて
わがよのことと
みちとせをまて


男、
男、


心より
ほかに命の
あらざらは
三千年をのみ
待ちは過ぐさじ
こころより
ほかにいのちの
あらざらは
みちとせをのみ
まちはすぐさじ


と言ひて、この男、「いと久しきことの譬ひに過ぎぬべし。
と言ひて、この男、「いと久しきことの譬ひに過ぎぬべし。


なほ、よそにてだに、いかでもの言はむ」とぞ言ひやりける。
なほ、よそにてだに、いかでもの言はむ」とぞ言ひやりける。


女は、われと人やりて、
女は、われと人やりて、


「や、よそにても会ふべき。この春・夏過ぐることをだに憎し。かつ、ことにして秋を」とぞ、言ひおこせたりける。
「や、よそにても会ふべき。この春・夏過ぐることをだに憎し。かつ、ことにして秋を」とぞ、言ひおこせたりける。


男。
男。


会ふ道に
天の河原を
渡ればや
ことの契りに
秋を頼むる
あふみちに
あまのかはらを
わたればや
ことのちぎりに
あきをたのむる


返し。
返し。


秋までと
人を頼むる
言の葉は
露に移らぬ
色ことにせむ
あきまでと
ひとをたのむる
ことのはは
つゆにうつらぬ
いろことにせむ


男、返し。
男、返し。


露移る
紅葉散らずは
秋待てと
言ふ言の葉を
何かわびまし
つゆうつる
もみぢちらずは
あきまてと
いふことのはを
なにかわびまし


女、いかが思ひけむ。
女、いかが思ひけむ。


相語らひにけり。
相語らひにけり。