また、この男、見通ひにして、人目にはつれなうて、内にはもの言ひ通はすことはあれど、会ふべきことは難くぞありける。
また、この男、見通ひにして、人目にはつれなうて、内にはもの言ひ通はすことはあれど、会ふべきことは難くぞありける。
されば、思ひは離れず、思ふものから、異女ども、この男の親族の男なる、花摘みにぞ行きける。
されば、思ひは離れず、思ふものから、異女ども、この男の親族の男なる、花摘みにぞ行きける。
さて、山にまじりて遊ぶに、この男の馬放れにけり。
さて、山にまじりて遊ぶに、この男の馬放れにけり。
荒れて、さらに捕られざりければ、このごろ通はす女ぞ、「恐しくも、早りあるかな」。
荒れて、さらに捕られざりければ、このごろ通はす女ぞ、「恐しくも、早りあるかな」。
春の野に
荒れて捕られぬ
駒よりも
君が心ぞ
懐けわびぬる
はるののに
あれてとられぬ
こまよりも
きみがこころぞ
なづけわびぬる
取る袖の
懐くばかりに
見えばこそ
摘み野の駒も
荒れまさるらむ
とるそでの
なつくばかりに
みえばこそ
つみののこまも
あれまさるらむ