泰澄者、賀州人也。
泰澄は、賀州の人なり。


世謂之越小大德。
世にこれを越の小大德と謂ふ。


神驗多端也。
神驗多端なり。


雖萬里地、一旦而到。
萬里の地といへども、一旦にして到る。


無翼而飛。
翼なくして飛ぶ。


顯白山之聖跡、兼作其賦。
白山の之聖跡を顯し、兼ねてその賦を作る。


于今傳於世。
今に于於世に傳はる。


到吉野山、欲解一言主之縛、試苦加持。
吉野山に到り、一言主の之縛を解かんと欲し、苦ろに加持を試む。


三匝已解。
三匝りは已に解けたり。


暗有聲叱之。
暗に聲有りてこれを叱す。


繋縛如元。
繋縛元のごとし。


又向諸神社、問其本覺。
又諸の神社に向ひ、その本覺を問ふ。


於稻荷社、數日念誦。
稻荷社に於て、數日念誦す。


夢有一女、出自帳中告云、本體觀世音。
夢に一女有り、出て帳中より告げて云く、本體は觀世音なり。


常在補陀洛、爲度衆生故、示現大明神。
常に補陀洛に在り、衆生を度せんが爲めの故に、大明神と示現すと。


詣阿蘇社。
阿蘇の社に詣づ。


有九頭龍王、現於池上。
九頭龍王有り、於池上に現はる。


泰澄曰、豈以畜類之身、領此靈地乎。
泰澄曰く、豈に畜類の之身をもつて、この靈地を領せんや。


可示眞實。
眞實を示すべしと。


日漸欲晩。
日漸く晩れんと欲す。


有金色三尺千手觀音、現於夕陽之前、池水之上。
金色の三尺の千手觀音有り、於夕陽の之前、池水の之上に現はる。


泰澄經數百年不知其終。
泰澄數百年を經てその終りを知らず。