沙門日藏者、不知何國人。
沙門日藏は、何れの國の人なるかを知らず。
始止住東寺、後住於大和國宇多郡寶生山龍門寺。
始め東寺に止住し、後於大和の國宇多郡寶生山龍門寺に住む。
學究眞言、神驗無極。
眞言を學び究め、神驗極まりなし。
後堀土、得前身所瘞之鈴杵。
後土を堀り、前身瘞む所の之鈴杵を得。
到此山、足腫不能行歩。
この山に到り、足腫れて行歩すること能はず。
山神爲不令他所行臻。
山神の他所には行き臻らしめざらんが爲めなり。
而仁海僧正爲習密敎、到日藏廬。
而れば仁海僧正密敎を習はんがために、日藏の廬に到る。
昔於金峰山、入深禪定。
昔金峰山に於て、入りて深く禪定す。
見金剛藏王幷菅丞相靈。
金剛藏王幷びに菅丞相の靈を見る。
年及期頤、猶有少容。
年期頤きいに及び、なほ少き容有り。
人疑其數百歳之人。
人その數百歳の之人なるを疑ふ。
嘗詣松尾社、欲知其本覺。
嘗て松尾社に詣で、その本覺を知らんと欲す。
及于竟日、雷電霹靂、暴風澍雨、日西沓冥。
于竟る日に及び、雷電霹靂、暴風澍雨、日西沓冥えうめいなり。
有一老父、來叱日藏、兼薙草。
一老父有り、來りて日藏を叱し、兼ねて草を薙ぐ。
而風振御殿戸、數十百歳飜。
而して風御殿の戸を振るひ、數十百歳飜る。
殿中有聲曰、毗婆尸佛。
殿中に聲有りて曰く、毗婆尸びばし佛と。
入棺之後、一無其屍。
入棺の之後、一もその屍なし。