慈覺大師、諱圓仁、俗姓壬生、下野國人。
慈覺大師は、諱圓仁、俗姓壬生、下野の國の人なり。


生而神聽、長而侚雋。
生れて神聽、長じて侚雋なり。


止住延曆寺、師事傳敎大師。
延曆寺に止住し、傳敎大師に師事す。


後夢中依先師告、奏公家入大唐、究學眞言・止觀之道。
後夢中に先師の告ぐるに依りて、公家に奏して大唐に入り、眞言・止觀の之道を究學す。


逢七人聖僧、瀉瓶密敎。
七人の聖僧に逢ひ、密敎を瀉瓶しやびやうす。


逢會昌天子破滅佛法。
會昌の天子の破佛法を滅するに逢ふ。


大師逢此喪亂、還多得佛像經論、遂得歸朝。
大師この喪亂に逢ひ、還りて多く佛像經論を得、遂に歸朝することを得。


位到天台座主、帝王灌頂、公卿首。
位天台座主に到り、帝王の灌頂、公卿の首たり。


天性慈悲、遂不喜怒。
天性慈悲にして、遂に喜怒せず。


門跡大弘滿於天。
門跡大に弘まり於天に滿つ。


作兩界儀形、祈佛許否。
兩界の儀形を作り、佛の許すか否かを祈る。


夢射日中之、爰知應佛心。
夢に射日之に中り、爰に佛の心に應ずることを知る。


及其入滅之期、忽然而失、不知所在。
その入滅の之期に及び、忽然として失せ、在る所を知らず。


門弟相尋、落挿於如意山之谷、不見其餘。
門弟相尋ぬるに、挿を於如意山の之谷に落とし、その餘を見ず。


爰知大權之人。
爰に大權の之人なることを知る。


豈非神仙類乎。
豈に神仙の類にあらずや。


事詳別傳。
事の詳かなるは別に傳ふ。


今記大概。
今大概を記す。