御所のありさま、いつしかあらぬことになりて、はてには、火をだにも灯さざりけるを、尋ね給ひければ、「諸司みな、今の御ことをつとむる間に、つかうまつる人なし」と聞こえけるに、いとど世の憂さ思ひ知られて、さるべき人、みな御門の御方へ参りけれど、「忠臣は二君に仕へず」と言ひて、つひに参らず。
御所のありさま、いつしかあらぬことになりて、はてには、火をだにも灯 さざりけるを、尋ね給ひければ、「諸司 みな、今の御ことをつとむる間に、つかうまつる人なし」と聞こえけるに、いとど世の憂さ思ひ知られて、さるべき人、みな御門の御方へ参りけれど、「忠臣は二君に仕へず」と言ひて、つひに参らず。
「参りけれど」は、底本「マイリケルト」。諸本により訂正。
後には大原に澄みて、二心なく行ひ給ひけるを、時の一の人、貴く聞き給ひて、忍びつつ、彼の室に渡り給ひて、対面し給へることありけり。
後には大原に澄みて、二心なく行ひ給ひけるを、時の一の人、貴く聞き給ひて、忍びつつ、彼の室 に渡り給ひて、対面 し給へることありけり。
時の一の人. 藤原頼通
いとめでたく貴く思されて、導き給ふべきことども、返す返す契り聞こえて、今帰りなんとし給ひける時、「さても、渡り給へる、いとかしこまり侍り。俊賢は不覚のものにて侍るなり」とてなむ、申し給ひける。
俊賢. 源俊賢。ただし、俊賢は顕基の父親なので、誤り。諸本及び、他書には「俊実」とあるも、顕基の子ではない。
源俊賢