兵部卿致平親王の御子成信中将と、堀川右大臣の子にて重家の少将と聞こえける人、時にとり世にとりて、たぐひなき若人なりければ、照る中将、光る少将とて、同じさまにぞ言はれ給ひける。
兵部卿致平親王の御子成信中将と、堀川右大臣の子にて重家の少将と聞こえける人、時にとり世にとりて、たぐひなき若人 なりければ、照る中将、光る少将とて、同じさまにぞ言はれ給ひける。
少将は、時の一の人の重くわづらひ給ひけるに、そのかげに隠れたる人の、憂へあるさまを受けとり給ふべき方の、御ゆかりの人の気色などを見給ひけるに、「惜しむもそねむも、心憂き習ひなり」と思しけるより、おのづから厭ふこととなりにけり。
少将は、時の一の人の重くわづらひ給ひけるに、そのかげに隠れたる人の、憂へあるさまを受けとり給ふべき方の、御ゆかりの人の気色 などを見給ひけるに、「惜しむもそねむも、心憂き習ひなり」と思しけるより、おのづから厭ふこととなりにけり。
時の一の人. 藤原道長
中将は斉信・公任・俊賢・行成など聞こえて、いみじかりける人々、陣の座にて、朝のさだめども、折り折り才覚を吐きて、いみじかりけるを立ち聞きて、「司・位は、『高く昇らん』と思はば、身の恥を知らぬにこそありけれ。この人々には、いかにも及ぶべくもあらず。さて、世にありては、いかにかはせん。かの世を願ふべかりけり」と思ひ取り給ひけるなり。
中将は斉信・公任・俊賢・行成など聞こえて、いみじかりける人々、陣の座にて、朝のさだめども、折り折り才覚を吐きて、いみじかりけるを立ち聞きて、「司 ・位 は、『高く昇らん』と思はば、身の恥を知らぬにこそありけれ。この人々には、いかにも及ぶべくもあらず。さて、世にありては、いかにかはせん。かの世を願ふべかりけり」と思ひ取り給ひけるなり。
中将は斉信. 藤原斉信
公任. 藤原公任
俊賢. 源俊賢
行成. 藤原行成
公任. 藤原公任
俊賢. 源俊賢
行成. 藤原行成
重家の君、遅く見えければ、夜に入るまで待ちかねて、「おのづから思ひわづらふことのあるなめり」と本意なく思しながら、一人、阿闍梨の室に至りて、「頭おろさん」と聞こゆ。
重家の君、遅く見えければ、夜に入るまで待ちかねて、「おのづから思ひわづらふことのあるなめり」と本意 なく思しながら、一人、阿闍梨の室 に至りて、「頭 おろさん」と聞こゆ。
阿闍梨、「あたらしき御様なるのみにあらず、名高くおはするの身なれば、便なく侍りなむ」とて、いなび申しければ、あからさまに立ち出づる様にて、みづから髪を切りて、「かくなむまかりなりたる」とありける時ぞ、ゆひかひなくて、許し聞こえける。
「いかに、遅は。夜更くるまで待ち奉りしかど、『もし、ためらひ給ふことなどの侍るか』とて、先になんつかまつりたる」とありければ、「さやうに契り聞こえて、いかでかは日をばたがへ侍らん。おとどに暇乞ひ奉らでは、罪得ぬべく思ひ給へて、ついでをはからひ侍りしかば、『日をたがへじ』とて、夜べ元結をば切り侍り」とてなむ、見せ給ひける。
「いかに、遅は。夜更くるまで待ち奉りしかど、『もし、ためらひ給ふことなどの侍るか』とて、先になんつかまつりたる」とありければ、「さやうに契り聞こえて、いかでかは日をばたがへ侍らん。おとどに暇乞ひ奉らでは、罪得ぬべく思ひ給へて、ついでをはからひ侍りしかば、『日をたがへじ』とて、夜べ元結 をば切り侍り」とてなむ、見せ給ひける。
おとど. 父の顕光
この少将、まづ元結を切りて、やはらかぶりをして、暗きまぎれに、父の大臣に暇を乞ひ給ひければ、おのづからその気色やあらはれたりけん、「いかに言ふとも、とまるべき様にも見えざりしかば、えとどめずなりにき」とぞ、のたまひける。
この少将、まづ元結を切りて、やはらかぶりをして、暗きまぎれに、父の大臣に暇を乞ひ給ひければ、おのづからその気色 やあらはれたりけん、「いかに言ふとも、とまるべき様にも見えざりしかば、えとどめずなりにき」とぞ、のたまひける。
御子成信中将. 源成信・永円
堀川右大臣. 藤原顕光
重家の少将. 藤原重家・一条院