延久三年正月三十日



仁和寺に渡りて、思ひ乱るる南面に、梅花いみじう咲きたるに、鶯の鳴きしかば、
仁和寺に渡りて、思ひ乱るる南面みなみおもてに、梅花いみじう咲きたるに、鶯の鳴きしかば、


なくなくも
あはれなるかな
枝々に
木伝ふ春の
鶯の声
なくなくも
あはれなるかな
えだえだに
こづたふはるの
うぐひすのこゑ


なほ、申文にて、内にも参らせまほしう、
なほ、申文まうしぶみにて、内にも参らせまほしう、


雲の上ぞ
のどけかるべき
万代に
千世かさねます
ももしきの君
くものうへぞ
のどけかるべき
よろづよに
ちよかさねます
ももしきのきみ


はかなくて、過ぎ侍りにける年月のことども、をかしうも、あやしきも、数知らず積り侍りにけれど、それを記し置きて、人の見るべきことにも侍らぬを、年八十になりて、世にたぐひなきことの侍れば、心一つに見侍るが、しばし書き付けてみ侍まほしうて。