はかなくて過ぐる月日ぞ。



われ一人がおぼつかなさに、「渡りやし給ひにけむ、まだ筑紫におはするにや」とも知らず。



また、この律師の、受け取りて、もてあつかひ給ふもいとほしく、二人おはしあひたりしを、嬉しく、たぐひなく思えて、嬉しかりしも思ひ出でられて、ただ音のみぞ泣かるる。
また、この律師りしの、受け取りて、もてあつかひ給ふもいとほしく、二人おはしあひたりしを、嬉しく、たぐひなく思えて、嬉しかりしも思ひ出でられて、ただのみぞ泣かるる。

この律師=成尋阿闍梨母のもう一人の子。
この花のはなばなと咲きたるを見て、乞ふめれば、童の多く折りて持て来たるも、折りからに、もののみあはれに、撫子の萎みたるに、
この花のはなばなと咲きたるを見て、乞ふめれば、わらはの多く折りて持て来たるも、折りからに、もののみあはれに、撫子なでしこしぼみたるに、


秋深き
唐撫子は
かれぬとも
さがのこととて
歎きしもせじ
あきふかき
からなでしこは
かれぬとも
さがのこととて
なげきしもせじ


など、独りごちて行く道に、斎宮のおはしましたる跡、野宮といふに、屋をこぼち散らして、恐しげにしなしたるを見るに、かぎりなき御有様にても、おはしましけむほど、推し量られて、



かぎりなき
神代の君が
別れだに
跡のあはれは
悲しかりけり
かぎりなき
かみよのきみが
わかれだに
あとのあはれは
かなしかりけり


あしたに帰りても、天をながめて居たるほどに、



「筑紫へまかる者なり。御文や賜ふ」と言ふに、胸きと騒ぎてぞ、つらく思ゆるに、



雲居まで
飛び別れにし
葦田鶴は
ふみ見ぬ跡を
たづねしもせじ
くもゐまで
とびわかれにし
あしたづは
ふみみぬあとを
たづねしもせじ


と恨めしう思えながらも、書きて奉る。



これも書きて奉らまほしかりしかど、かやうのことも見知り給ふ方は見えざりしかば、書かずなりにき。



心憂かりし別れを、夢と思ふも、「いつか、うつつの嬉しきを見む」など思ゆる。