世の中、いとどかき暗す心地して、経をだに読みて、念じ奉らむとすれど、それもいと苦しうて、読みもやられ給はず、日数のみ経るに、心の内に思ゆること、「これは罪にや」と恐しけれど、少しも慰めに、



一巻


『法花経』一巻の意。以下同じ。
散りにける
花の折り見ぬ
その憂きに
いとどこずゑの
はるかなるかな
ちりにける
はなのをりみぬ
そのうきに
いとどこずゑの
はるかなるかな


二巻



塵払ふ
家のあるじも
わかことや
惑ひたる子は
ゆかしかりけむ
ちりはらふ
いへのあるじも
わかことや
まどひたるねは
ゆかしかりけむ


三巻



一つあめの
下にぬれども
いかなれば
うるはぬ草の
みとなりにけん
ひとつあめの
したにぬれども
いかなれば
うるはぬくさの
みとなりにけん


四巻



酔ひさめて
のちにあはずは
いかでかは
衣の裏の
珠を知るべき
ゑひさめて
のちにあはずは
いかでかは
ころものうらの
たまをしるべき


五巻



君にこそ
二つの珠は
まかせしか
五つの障り
とどめてきとて
きみにこそ
ふたつのたまは
まかせしか
いつつのさはり
とどめてきとて


六巻



愚かなる
心とともと
聞きしかど
こははるかにぞ
いく薬なる
おろかなる
こころとともと
ききしかど
こははるかにぞ
いくくすりなる


七巻



行く人
は嬉しき船と
思ふとも
とまれるかたの
うらめしきかな
ゆくひとは
うれしきふねと
おもふとも
とまれるかたの
うらめしきかな


八巻



明け暮れば
普き門を
頼みつつ
出でにし人の
入るをこそ待て
あけくれば
あまねきかどを
たのみつつ
いでにしひとの
いるをこそまて


無量義経



量りなく
重きを渡す
船の師は
またこの岸を
頼みてぞ待つ
はかりなく
おもきをわたす
ふねのしは
またこのきしを
たのみてぞまつ


普賢経



日にそへて
そらおもいとと
たのむかな
ないたのつゆの
みをもきやせと
ひにそへて
そらおもいとと
たのむかな
ないたのつゆの
みをもきやせと


無量義経



すぐれたる
蓮の上を
願ふかな
会ふはかりなき
君を頼みて
すぐれたる
はちすのうへを
ねがふかな
会ふはかりなき
きみをたのみて


小阿弥陀経



浅からず
思ひそめたる
いろいろの
蓮の上を
いかが見ざらむ
あさからず
おもひそめたる
いろいろの
はちすのうへを
いかがみざらむ


とこそは、頼みて過ぐし侍れ。