されど、なほ、この世のおぼつかなさの慰むかたなく思ゆるままに、六月十余日にぞ、文おこせ給へる。


二巻(14) 日数もはかなく過ぎて六月になりぬ・・・を受ける。
見れば、「三月十余日ぞ、唐の船には乗りて渡りぬる。



今は心安く、『必ず極楽に参るべき』と思ゆるを、そこにも必ず会ひ給ふべきなり」とあり。



げに、この思ひ給へる心ばかりは本意あれど、この世のおぼつかなさは、慰む方なく、「対面すべき命のほどならず」とのみ言ひ尽すかたなくて、ものも言はれず。
げに、この思ひ給へる心ばかりは本意ほいあれど、この世のおぼつかなさは、慰む方なく、「対面たいめすべき命のほどならず」とのみ言ひ尽すかたなくて、ものも言はれず。


蓮の上の一つの居所、待つほどの目は紅の涙にくもり、袖は池の堤に余りて隙もなく、色々の蓮の光満ちたらむ、いみじうゆかしく思えながら、この夢に惑ふほどのあはれをば、
はちすの上の一つの居所、待つほどの目はくれなゐの涙にくもり、袖は池のつつみに余りてひまもなく、色々の蓮の光満ちたらむ、いみじうゆかしく思えながら、この夢に惑ふほどのあはれをば、


この世にて
見えずなりなば
夢の内の
惑ひも覚めぬ
身とやなりなん
このよにて
みえずなりなば
ゆめのうちの
まどひもさめぬ
みとやなりなん


と言へども、涙にぞ身にはつけぬたぐひなりけれ。



敷島を
厭ふたぐひを
ありと言はば
人に問ひても
慰めてまし
しきしまを
いとふたぐひを
ありといはば
ひとにとひても
なぐさめてまし


薬採る
昔の人に
あらずとも
この敷島を
めぐり会はばや
くすりとる
むかしのひとに
あらずとも
このしきしまを
めぐり会はばや

徐福を指す
なほ、堪へむかたなし。



「蓮の上に会へ」とあるこそ、



この池に
並ぶ蓮の
露ならば
さ言はんことも
嬉しからまし
このいけに
ならぶはちすの
つゆならば
さいはんことも
うれしからまし


会ふことを
蓮の上と
契れども
この世はなほぞ
忘れざりける
あふことを
はちすのうへと
ちぎれども
このよはなほぞ
わすれざりける


やまとなる
わが歎きのみ
茂りつつ
からき思ひぞ
やるかたもなき
やまとなる
わがなげきのみ
しげりつつ
からきおもひぞ
やるかたもなき


とのみ、独りごちつつ、明かし暮せど、かの正月のつごもりの日、仁和寺に渡りし折りのみ、ただ今のやうに思えて、別れ悲しく、
とのみ、独りごちつつ、明かし暮せど、かの正月のつごもりの日、仁和寺にわじに渡りし折りのみ、ただ今のやうに思えて、別れ悲しく、


東路の
別れなりせば
わが恋を
富士の煙に
よそへてましを
あづまぢの
わかれなりせば
わがこひを
ふじのけぶりに
よそへてましを


一人のみ
思ひ焦がるる
わが恋は
心づくしの
竃山かな
ひとりのみ
おもひこがるる
わがこひは
こころづくしの
かまどやまかな