「唐よりここに、文あり」と聞きしかど、そらごとにや、見えず。
「唐よりここに、ふみあり」と聞きしかど、そらごとにや、見えず。


それを見るとも、「ゆかしう、対面せまほしきことは慰めやせむずる」と思へど、ここにて、はや、うちありける文の、ものに入りたりける、取り出でて、見まほしき折りは見るものを、まして、「唐のことなどあらむ」と思ふがゆかしきなり。
それを見るとも、「ゆかしう、対面たいめせまほしきことは慰めやせむずる」と思へど、ここにて、はや、うちありける文の、ものに入りたりける、取り出でて、見まほしき折りは見るものを、まして、「唐のことなどあらむ」と思ふがゆかしきなり。


からくにの
別れなりとも
わが身だに
ここに歎かば
誰か歎かむ
からくにの
わかれなりとも
わがみだに
ここになげかば
たれかなげかむ


ともすれば
涙にくもる
行く末の
暗き道こそ
思ひやらるれ
ともすれば
なみだにくもる
ゆくすゑの
くらきみちこそ
おもひやらるれ


うち歎きつつ、月日を過ぐす。



世のいとはしさ、いふかたなし。



「昔物語の、あはれなるも、をかしきもありし、そらごとにはあらざりけり」と、今ぞ思ゆる。



うち歎きつつ、月日を過ぐす。



世のいとはしさ、いふかたなし。



「昔物語の、あはれなるも、をかしきもありし、そらごとにはあらざりけり」と、今ぞ思ゆる。



この居たる西南、所々に桜いみじう咲きたるを、幼き者どもの、「乞ひ寄せて賜へ」と言へば、



花よりも
身にはたとへむ
方ぞなき
うつらむ春に
会はむとすやは
はなよりも
みにはたとへむ
かたぞなき
うつらむはるに
会はむとすやは


と見ゆるほどに、帰る雁、雲居に聞こゆるを、「いみじう遥かなる」とあはれにて、



秋はつる
雁の声とは
聞きながら
春の雲居の
あはれなるかな
あきはつる
かりのこゑとは
ききながら
はるのくもゐの
あはれなるかな


と思ふに、「唐にも秋こそは渡るなれ」と人の言ふにも、



うらやまし
同じ雲居の
ほどと言へど
いつとも知らぬ
秋を待つかな
うらやまし
おなじくもゐの
ほどといへど
いつともしらぬ
あきをまつかな


かりにても
今日ばかりこそ
うらやまめ
明日を待つべき
命ならねば
かりにても
けふばかりこそ
うらやまめ
あすをまつべき
いのちならねば


袖はひぢ
涙の池に
目はなりて
影見まほしき
音をのみそ泣く
そではひぢ
なみだのいけに
めはなりて
かげみまほしき
ねをのみそなく


「『言ふにもあまる』と、昔の人のいひける、そらごとにはあらざりけり」とぞ、思ひしらる。



よかながらへんわうにあらで、死なむおりは、思ひ出でて。