「備前より」とて、文持て来たる。
「備前より」とて、文持て来たる。
いとおぼつかなく思ゆるに、急ぎ見れば、「今日なむ、筑紫の船に乗りぬる」とあり。
日ごろ、風の音も荒らかにすれば、「いかが」とのみ、耳立てて聞かれつるに、「むげに遠ざかりておはしぬるにこそ」と、いとど上の空目せられて、めづらしけなき涙こぼれまさるにも、
日ごろ、風の音も荒らかにすれば、「いかが」とのみ、耳立てて聞かれつるに、「むげに遠ざかりておはしぬるにこそ」と、いとど上の空目せられて、めづらしけなき涙こぼれまさるにも、
わが袖に
かかる涙を
とどめおきて
船はのどかに
漕ぎや行くらむ
わがそでに
かかるなみだを
とどめおきて
ふねはのどかに
こぎやゆくらむ
あひ見むと
思ふ心は
深けれど
われや泣く泣く
待たずなりなむ
あひみむと
おもふこころは
ふかけれど
われやなくなく
またずなりなむ
と思ふ思ふ、端の方み出だしたれば、桜、いみじく咲きたれば、岩倉の桜、思ひやられて、思えし限り言ひやられし。
と思ふ思ふ、端の方み出だしたれば、桜、いみじく咲きたれば、岩倉の桜、思ひやられて、思えし限り言ひやられし。
山桜
思ひこそやれ
このもとに
散り散りになる
春は憂けれど
やまさくら
おもひこそやれ
このもとに
ちりちりになる
はるはうけれど
山桜
散り散りになる
あはれなり
残れる枝の
頼みなければ
やまさくら
ちりちりになる
あはれなり
のこれるえだの
たのみなければ
岩倉より訪るる人もなきに、いとど残りはつかに、絶えぬる心地して、
奥山に
すみおきたりし
かひもなく
まつの煙の
跡ぞ絶えたる
おくやまに
すみおきたりし
かひもなく
まつのけぶりの
あとぞたえたる