秋の月のさやけくくまなきに心を澄まして、全く世の事にほだされず。
秋の月のさやけくくまなきに心を澄まして、全く世の事にほだされず。
秋月清くすさまじき曙に簫を吹く声、あはれにかなしき事限りなし。
秋月清くすさまじき曙に簫を吹く声、あはれにかなしき事限りなし。
世のあさましきことに思ひ謗りけれど、いかにも苦しと思えず、ただもろともに台の上にて簫を吹き、月をのみ眺め給ふこと二心なし。
世のあさましきことに思ひ謗りけれど、いかにも苦しと思えず、ただもろともに台の上にて簫を吹き、月をのみ眺め給ふこと二心なし。
月やうやく西に傾きて、山の端近くなるほどに、心やいさぎよかりけん、簫史・弄玉二人の人を具して、むなしき空に飛び上りぬ。
月やうやく西に傾きて、山の端近くなるほどに、心やいさぎよかりけん、簫史・弄玉二人の人を具して、むなしき空に飛び上りぬ。
たぐひなく
月に心を
澄ましつつ
雲に入りにし
人もありけり
たぐひなく
つきにこころを
すましつつ
くもにいりにし
ひともありけり
むなしき空に立ち昇るばかり心の澄みけんも例なくぞ。
むなしき空に立ち昇るばかり心の澄みけんも例なくぞ。
また簫の声に賞でて、人の嘲りを忘れ給けんも、好ける御心の根、推し量られていといみじ。
また簫の声に賞でて、人の嘲りを忘れ給けんも、好ける御心の根、推し量られていといみじ。