昔、男女あひ住みけり。



年なども盛りにて、よろづの行く末のことまで浅からず契りつつありふるに、この夫、思ひのほかにはかなくなりにけり。



その後、涙に沈みて、あるにもあらず思えけるを、「我も、我も」と懇ろに挑み言ふ人ありけれど、いかにも許さざりけり。
その後、涙に沈みて、あるにもあらず思えけるを、「我も、我も」とねんごろに挑み言ふ人ありけれど、いかにも許さざりけり。


これを聞くにつけても、亡き影をのみ心にかけつつ、時の間も忘るるひまなくて、つひに命を失ひてけり。



その屍は石になりにける。
そのかばねは石になりにける。


ことはりや
契りしことの
固ければ
つひには石と
なりにけるかな
ことはりや
ちぎりしことの
かたければ
つひにはいしと
なりにけるかな


この石をば、その里の人々、「望夫石」とぞいひける。



一筋に思ひ取りけむ心のありけん。
一筋ひとすぢに思ひ取りけむ心のありけん。


有り難さも、この世の人には似ざりけり。