昔、上陽人、上陽宮に閉じ込められて、多くの年月を送りけり。
秋の夜、春の日、明け暮れは、風の音、虫の声より外に、またおとづるる物なきには、嵐にたぐふ紅葉の錦、百囀の鶯の声も、我ためはいと情けなき心地す。
秋の夜、春の日、明け暮れは、風の音、虫の声より外に、またおとづるる物なきには、嵐にたぐふ紅葉の錦、百囀の鶯の声も、我ためはいと情けなき心地す。
夜の雨、窓を打つ音にも、愁への涙、いとどまさりけり。
いとどしく
なぐさめ難き
秋の夜に
窓打つ雨ぞ
いとどわりなき
いとどしく
なぐさめかたき
あきのよに
まどうつあめぞ
いとどわりなき
この人、昔、内に参りけるに、その形華やかにをかしげなりけるを頼みて、楊貴妃などをも争ふ心やありけん、一生つひに、むなしき床をのみ守りつつ、花の形いたづらにしをれて、むばたまの黒髪、白くなりにけり。
この人、昔、内に参りけるに、その形華やかにをかしげなりけるを頼みて、楊貴妃などをも争ふ心やありけん、一生つひに、むなしき床をのみ守りつつ、花の形いたづらにしをれて、むばたまの黒髪、白くなりにけり。