昔、賈氏といふ人、たぐひなく形悪くて、顔美しき妻をなん持ちたりける。
昔、賈氏かしといふ人、たぐひなく形わろくて、顔美しき妻をなん持ちたりける。


この女、かばかり醜き人とも知らず、あひそめにければ、くやしき事取り返すばかりに思えけれど、いふかひなくて明かし暮らすに、良き事、悪しきこと、すべて物いはず、えも笑はで、世の常はむすぼほれてのみ過ぐしけるを、男、たぐひなく「憂し」と思ひて、「この女に物言はせ、うち笑ませばや」としけれども、いかにもかひなくて三年にもなりにけるに、春、野辺に出でて、もろともに遊び侍りけり。
この女、かばかり醜き人とも知らず、あひそめにければ、くやしき事取り返すばかりに思えけれど、いふかひなくて明かし暮らすに、良き事、悪しきこと、すべて物いはず、えも笑はで、世の常はむすぼほれてのみ過ぐしけるを、男、たぐひなく「憂し」と思ひて、「この女に物言はせ、うち笑ませばや」としけれども、いかにもかひなくて三年みとせにもなりにけるに、春、野辺に出でて、もろともに遊び侍りけり。


雉子といふ鳥の沢のほとりに立ち居侍りけるを、この夫、弓矢を取りて名を得たりければ、この雉子をたちどころに射殺してけり。
雉子きぎすといふ鳥の沢のほとりに立ち居侍りけるを、この夫、弓矢を取りて名を得たりければ、この雉子をたちどころに射殺してけり。


これを見るに、年ごろのにくさも忘れて、讃め、うち笑みたりければ、夫、嬉しさたぐひなく思えて、



聞かましや
妹が三年の
言の葉を
野沢のきぎす
得ざらましかば
きかましや
いもがみとしの
ことのはを
のさはのきぎす
えざらましかば


これを聞くにこそ、万のことよくしまほしけれ。
これを聞くにこそ、よろづのことよくしまほしけれ。