昔、宋玉と聞こゆる人、形・姿、世にたぐひなく、ざえ才学並びなかりけり。



この人住みける東の隣に、また、世にたぐひなく美しき女ありけり。



この宋玉を「いかでも」と思ふ心の忍びがたさに、東の垣に、夜昼立ち添ひて伺ひけれど、三年まで目をだに見遣らざりければ、恋ひ侘びて、つひに逢ふこと知らぬ涙に沈みはてにけり。
この宋玉を「いかでも」と思ふ心の忍びがたさに、東のかきに、夜昼立ち添ひてうかがひけれど、三年みとせまで目をだに見遣みやらざりければ、恋ひ侘びて、つひに逢ふこと知らぬ涙に沈みはてにけり。


恋ひ侘びて
三年になりぬ
花がたみ
目ならぶ人の
またもなければ
こひわびて
みとしになりぬ
はながたみ
めならぶひとの
またもなければ


ゆかしからずはなかりけめど、あまり心の優にて、「人に物を思はせん」と思へりけるにや、また、さもやなかりけん、心の内知りがたし。
ゆかしからずはなかりけめど、あまり心のいうにて、「人に物を思はせん」と思へりけるにや、また、さもやなかりけん、心の内知りがたし。