伊勢御息所事



今は昔、伊勢の御息所、七条の后宮に候ひ給ひけるころ、枇杷の大納言の忍びて通ひ給ひけるに、女、いみじう忍ぶとすれど、みな人知りぬ。


枇杷の大納言=藤原仲平
さるほどに忘れ給ひぬれば、



人知れず
やみなましかば
わびつつも
なき名ぞとだに
言はましものを
ひとしれず
やみなましかば
わびつつも
なきなぞとだに
ことはましものを


と詠みて遣りたりければ、「あはれ」とや思しけむ、帰りて、いみじう思して住み給ひけり。



「ほにいでて人に」と詠みたるも、この大臣におはす。
「ほにいでて人に」と詠みたるも、この大臣おとどにおはす。