樵夫詠隠題事



今は昔、隠し題をいみじく興ぜさせ給ひける御門の、「篳篥」を人、わろく詠みたりけるに、木樵る童の、「暁に山へ行く」とて言ひける。
今は昔、隠し題をいみじく興ぜさせ給ひける御門の、「篳篥ひちりき」を人、わろく詠みたりけるに、木樵る童の、「暁に山へ行く」とて言ひける。


「このごろ篳篥を詠ませさせ給ふなるを、人のえ詠みえ給はざむなる。童こそ詠みたれ」と言ひければ、具して行く童部、「あなおほけな。かかる事な言ひそ。様にも合はず。いまいまし」と言ひければ、「などか、必ず様によるか」とて、



巡りくる
春々ごとに
桜花
いくたび散りき
人に問はばや
めぐりくる
はるばるごとに
さくらばな
いくたびちりき
ひとにとはばや


と言ひたりける。



様に似ず、思ひがけずぞ