今は昔、高忠といひける越前の守の時に、いみじく不合なりける侍の、夜昼まめなるが、冬なれど、帷子一つをなむ着たりける。
今は昔、高忠 といひける越前の守の時に、いみじく不合 なりける侍の、夜昼まめなるが、冬なれど、帷子 一つをなむ着たりける。
それがもとに行きて、この得たる衣を二つながら取らせて言ひけるやう、「年まかり老ひぬ。身の不合、年を追いてまさる。この生の事は、やくもなき身に候ふめり。後生だにいかでとおぼえて、法師にまかりならむと思ひ侍れども、戒の師にたてまつるへき物の候はねば、今にえまかりならぬに、かく思ひかけぬ物を給ひたれば、限りなくうれしう思ふ給へて、これを布施に参らするなり。とく法師になさせ給へ」と涙にむせかへりて泣く泣く言ひければ、法師、いみじう貴とがりて、法師になしてけり。
それがもとに行きて、この得たる衣を二つながら取らせて言ひけるやう、「年まかり老ひぬ。身の不合、年を追いてまさる。この生の事は、やくもなき身に候ふめり。後生だにいかでとおぼえて、法師にまかりならむと思ひ侍れども、戒 の師にたてまつるへき物の候はねば、今にえまかりならぬに、かく思ひかけぬ物を給ひたれば、限りなくうれしう思ふ給へて、これを布施に参らするなり。とく法師になさせ給へ」と涙にむせかへりて泣く泣く言ひければ、法師、いみじう貴とがりて、法師になしてけり。