大方、倉もいくらともなく持ち、楽しなどは、この世ならずめぜたきが、心の口惜しくて妻にも子にも、まして使ふ物などには、いかにも物食はせ、着することなし。
大方、倉もいくらともなく持ち、楽しなどは、この世ならずめぜたきが、心の口惜しくて妻 にも子にも、まして使ふ物などには、いかにも物食はせ、着することなし。
「果物、御物、酒、合はせどもなど、おほらかにしてくれよ。我に憑きたる物惜しまする慳貪の神祭らん」と言へば、
「果物、御物 、酒、合はせどもなど、おほらかにしてくれよ。我に憑きたる物惜しまする慳貪の神祭らん」と言へば、
「物惜しむ心失なはん」と思ひてし立つ。まことに人も見候はざらん所に行きて、よく食はん」と思ひて、虚言をするなりけり。
「物惜しむ心失なはん」と思ひてし立つ。まことに人も見候はざらん所に行きて、よく食はん」と思ひて、虚言 をするなりけり。
「この木のもとに烏あり、あしこに雀めあり。食はれじ」と選りて、人離れたる山中の木の下に鳥獣もなく、食ふつべき物もなきに、食ひ居たる、楽しく心地よくて、ずんずる事、
「この木のもとに烏あり、あしこに雀めあり。食はれじ」と選りて、人離れたる山中の木の下に鳥獣もなく、食 ふつべき物もなきに、食ひ居たる、楽しく心地よくて、ずんずる事、
この心は、「今日、人無き所に一人居て、よき物を多く食ふこそ、毘沙門にも、天帝釈にも勝りたれ」と申すを、帝釈、きと御覧じてけり。
この心は、「今日、人無き所に一人居て、よき物を多く食ふこそ、毘沙門 にも、天帝釈 にも勝りたれ」と申すを、帝釈、きと御覧じてけり。
「我が、山にて物惜しむ神を祭りたる。げにその神離れて、物の惜しからねばするぞ」とて、倉どもを、こそと開けさせ給ひて、妻、子ども、親、従者ともを始めとして、知る知らぬなく宝・物どもをとり出だして、配らせ給ふ時に、喜び合ひて給はるほどにぞ、まことの長者は帰りたる。
「我が、山にて物惜しむ神を祭りたる。げにその神離れて、物の惜しからねばするぞ」とて、倉どもを、こそと開けさせ給ひて、妻、子ども、親、従者 ともを始めとして、知る知らぬなく宝・物どもをとり出だして、配らせ給ふ時に、喜び合ひて給はるほどにぞ、まことの長者 は帰りたる。