今は昔、河内国にいみじう不合なる女の、知れる人もなく、ただ一人ありけり。
Давным-давно жила в провинции Кавати очень бедная женщина, даже знакомых у неё не было, жила сама по себе.
すべき方もなかりければ、「田人買はん」といふ者を呼びて、筵も、笠・尻切なども取りて過ぐるほどに、その日といふこともなければ、またも言ふを呼びつつ、よろづの人の物を取りつつ使ひけるほどに、「二十人に言承けをしてけり」と思ふに、いといとあさましく、
すべき方もなかりければ、「田人 買はん」といふ者を呼びて、筵も、笠・尻切 なども取りて過ぐるほどに、その日といふこともなければ、またも言ふを呼びつつ、よろづの人の物を取りつつ使ひけるほどに、「二十人に言承 けをしてけり」と思ふに、いといとあさましく、
Делать было нечего, позвала она человека, что искал работниц на поле, дали ей циновку, шляпу, обувь, ... а потом другой, и так куча народу позвала её и дала ей вещи для работы, думает: "Двадцать человек поручили мне работу", перепугалась
「さは、おのづから同じ日も来て呼ばば、いかがせむずらん。一日に五所呼ばば、いかがせんずらん」と思ひ嘆きつつ過すほどに、夕さりは叩きて呼ぶ人あり。
「さは、おのづから同じ日も来て呼ばば、いかがせむずらん。一日 に五所 呼ばば、いかがせんずらん」と思ひ嘆きつつ過すほどに、夕さりは叩きて呼ぶ人あり。
"А если меня позовут в один день, что делать буду? Если за один день на пять полей позовут, то как быть?" — и всё тревожилась весь день, а вечером к ней пришёл человек.
「一所は往なむず。残りの務め、いかに言はむずらん」と思ひやる方なきままに、年ごろ、一尺ばかりなる観音を作り奉りて厨子に据ゑ参らせて、食ふ物の初穂を参らせつつ、「大悲観音、助け給へ」と言ふより他にまた申すこともなかりければ、厨子の前にうつ伏し伏して、よろづわびしきままに、
「一所 は往なむず。残りの務め、いかに言はむずらん」と思ひやる方なきままに、年ごろ、一尺ばかりなる観音を作り奉りて厨子に据ゑ参らせて、食ふ物の初穂 を参らせつつ、「大悲観音、助け給へ」と言ふより他にまた申すこともなかりければ、厨子の前にうつ伏し伏して、よろづわびしきままに、
「かかる言承けし候ひて、いま十九人の人に言ひ責められんが、わびしきままに『いづちも、いづちも、まかりやしなまし』と思ひ候へども、『年ごろ頼み参らせたる仏を捨て参らせては、いかがはまからん。また、人の物を取り使ひては、いかでかただにては止まむ。やうやうづつもこそはし候はめ』と思ひ候ふを、いかが候ふべき」
日暮らし植ゑ困じて、夕方帰りて、仏うち拝み参らせて、より臥したれば、戸をうち叩きて、「これ開け給へ」と言ふ人あり。
日暮らし植ゑ困 じて、夕方帰りて、仏うち拝み参らせて、より臥したれば、戸をうち叩きて、「これ開け給へ」と言ふ人あり。
その度は心得ず思ふに、また同じやうに叩けば、「いかに、いかに」と思ふに、ただ同じ事を言ひて、門をもえ立てあへぬほどに持て集ひたるを見れば、二十人になりたり。
その度 は心得ず思ふに、また同じやうに叩けば、「いかに、いかに」と思ふに、ただ同じ事を言ひて、門 をもえ立てあへぬほどに持て集ひたるを見れば、二十人になりたり。
心得ず思へど、「いかがはせん」とて、よき魚どもなとあれば、物よく食ひて、「観音のせさせ給へることなめり」と、うれしくて、寝たる夜の夢に見るやう、「己がいたくわび嘆きしが、いとほしかりしかば、いま十九人が所には、我たしかに植ゑて、清く真心に歩きつるほどに、我も困じにたり」とて、苦しげにて立たせ給へりと見て、覚めぬ。
心得ず思へど、「いかがはせん」とて、よき魚 どもなとあれば、物よく食ひて、「観音のせさせ給へることなめり」と、うれしくて、寝たる夜の夢に見るやう、「己がいたくわび嘆きしが、いとほしかりしかば、いま十九人が所には、我たしかに植ゑて、清く真心に歩きつるほどに、我も困じにたり」とて、苦しげにて立たせ給へりと見て、覚めぬ。