而る間、一日一夜を経て活て、語て云く、「我れ、死し時、我を搦て閻魔王の庁に将行く。冥官、冥道皆其の所に有て、或は冠を戴き、或は甲を着、或は鉾を捧げ、或は文案に向ひ札を勘へて罪人の善悪を注す。其の作法を見るに、実に怖るる所也。而るに、傍に、貴く気高き僧在ます。手に錫杖を取れり。亦、経筥を持て、閻魔王に申して云く、『沙弥源尊は、法花を読誦する事、多の年積れり。速に座に居るべし』と云て、此の筥より経を取出て、法花経を第一巻より第八巻に至るまで、源尊に読ましむ。其の時に、閻魔王より始め、冥官皆掌を合せて此れを聞く。其の後、此の僧、源尊を将出て本国に向はしむ。源尊、怪て此の僧を見れば、観音の形に在す。即ち源尊に教へて宣はく、『汝ぢ本国に返て、吉く此の経を読誦すべし。我れ力を加へて、暗に思えしむる事を得しめむ』と宣ふと思ふ程に、活へる也」と。